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広川泰士

既成事実の風景
僕の生まれ育った家は、海辺の町にあり子供の足で15分程歩いてよく海岸へ遊びに行った。海に近づいて来ると地面は砂が混ざり始め、潮の香がしてくる。やがて足元は砂に埋まり、砕ける波の音を聞き、風を感じながら緩い斜面の松林を抜けると光る海が拡がり、ガランとした砂浜には潮風に洗われた木造りのブランコ。ダボハゼや貝、ウニ、イソギンチャクがいる磯や岩場も恰好の遊び場だった。中学生になったある日、暫く振りに海岸へ行って愕然とした。松林も磯や岩場も消え、全てコンクリートで埋め尽くされていた。1960年代前半の事である。以来40年余り、当時出来た海沿いの道路は既成事実の風景として其処にあり、以前の佇まいを想像する余地はない。飽く無き作業は、今も延々と既成事実の風景を造り続け日本全土を被い尽くそうとしている。ただ、人間の意図に反して自然に戻ろうとする力がある事も忘れてはならない。

1950年神奈川県生まれ。東京在住。
コマーシャルの世界で活躍する一方、精力的に作品制作に取り組む。主要作品としては、デザイナーズブランドの服を、地方の生活者に着せた『そのままそのまま』、宇宙の神秘的なハーモニー『惑星の音』、全国の原子力発電所を現代日本の風景として捉えた 『Still Crazy』、悠久の時をテーマにした『Timescapes-無限旋律-』、『Whimsical Forces−時のかたち−』等がある。また、撮影監督を手がけた『トニー滝谷』(市川準監督・2004年)は世界30余ヵ国で上映され、ロカルノ映画祭において審査員特別賞、国際批評家連盟賞、ヤング審査委員賞の3賞同時受賞を果した。

コレクション
プリンストン大学美術館 / ロスアンゼルス・カウンティ美術館 / サンフランシスコ近代美術館 / 神戸ファッション美術館 / 東京都写真美術館 / フランス国立図書館

 

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