~地球の声に耳を傾ける~
エコピープル

2021年夏号 Ecopeople 88『子どもたちに ほたるの舞う ふるさとをつくる』
“ほたるおじさん” 土本修二さんインタビュー

1 ほたるとの日々

取材:太田菜穂子・文:久保田梓美

編集部
愛知県半田市岩滑(やなべ)といえば、宮沢賢治と並ぶ童話作家・詩人の新美南吉の生まれ故郷ですよね。土本さんはこの土地でホタルを育てていらっしゃると伺いました。

土本
新美南吉記念館の庭には小川があるんです。『ごんぎつね』にも登場する「中山の殿様」の領地の山から滲み出た水が流れているんです。この自然を生かしたら、岩滑が “ほたるの里”になるかもしれないと思ったのが 10年前のこと。今では毎年、卵から孵った幼虫が成虫になって飛ぶようになりました。我が家の手づくりの飼育箱の中では、約2万匹のほたるが光っています。あれほどきれいなものはありません。すごいですよ。
編集部
ほたるは卵から成虫になるまで、どれくらいかかるのですか?

土本
ちょうど1年、365日がほたるの一生です。ほたるの卵は6月ごろに生まれ、1ヶ月経つと、卵を割って幼虫が出てきます。餌のカワニナやタニシをたくさん与え、常に水を替えながら水の中で育てるんです。
ご存知ですか?ほたるは卵も幼虫も光るんですよ。
10ヶ月を水の中で過ごす幼虫は、毎晩光ってきれいなの。土に上がって蛹になりますが、蛹も光ります。そして、ちょうど今の時分、蛹を出て成虫になったときが一番きれい。オスは飛び回って、大きくパッと光を灯す。すると、草の中でじっとしていたメスが応えて、ワアッと光る。オスがそれを喜んでスーッと行き、お互いの恋人を見つけて明るく照らし合うんです。3日のうちに交尾をして、卵を産みおとします。僕はそれをずっと見ているんですよ。

編集部
まさに生命の輝きを放ち続ける1年間ですね。
昨年に続いて今年も、コロナの影響で中止になってしまった観賞会のかわりに、保育園の子どもたちと一緒に幼虫の放流をされたそうですが。

土本
わが家で育てた幼虫を、JFEスチール知多製造所にある、環境が整備された小川に「大きくなあれ」と言って放流しました。その前に、保育園を暗くして、幼虫の光るのを見せたのです。「わあ、光ったあ!」と、びっくりして、きっと感動したんだろうね。僕だって70歳を過ぎて初めて幼虫を見たのだから、5,6歳で体験できるなんて幸せだなあと思います。
今日は、ほたるの成虫を20人の保育園児たちに渡してきたところです。2Lのペットボトルに、ほたるを何匹かと草を入れて、穴を開けたキャップをして。家に持ち帰って、夜になると光るのを、お父さん、お母さんと一緒に楽しめると思います。成虫になってからは餌を一切食べず、1週間から10日くらいで死んでしまいます。
編集部
生きているものが輝いて、そして死んでいくところまで見届けることができるのですね。子どもたちがそのプロセスを体験できるのは、素晴らしいことです。

土本
子どもたちは大喜びで、ほたるおじさん、ありがとう。と言って寄ってきてくれます。それを聞くと、ああ、やってきてよかったなあ、続けていきたいなあと思います。