コクのあるとろりとした独特の甘みが口の中いっぱいに広がる牡蠣には、さまざまな栄養が豊富に含まれているため、昔から『海のミルク』と呼ばれています。20種類のアミノ酸、10数種類のビタミン、10数種類のミネラル、その他グリコーゲンや不飽和脂肪酸などを網羅し、中でも各種ホルモンの分泌に必要なミネラル"亜鉛"が100g中に40mgも含まれています。牡蠣に次いで多いとされる煮干でさえ、100g中に7.2mgですので、まさに完全栄養食品と言っても過言ではありません。

牡蠣は、他の貝のように砂にもぐったり泳いだりすることがありません。いったん棲む場所を決めたら一生そこから動かず岩に張りついたまま。運動のために栄養を使う必要がなく、その分蓄積されるため、栄養が凝縮されるというわけです。
西洋には「Rのつかない月の牡蠣を食べるな」ということわざがあります。Rがつかない月とは、May(5月)June(6月)July(7月)August(8月)のこと。この時季はちょうど牡蠣の産卵期にあたり、身がやせてグリコーゲンの蓄積が少なくなるため旨味が低下し、体力が落ち、感染や腐敗の心配が高くなるためです。

日本海でとれるイワガキのように、例外的に夏場が旬のものもありますが、日本でも「花見を過ぎたら牡蠣を食べるな」ということわざがあるように、先人の教えは、洋の東西を問わないようです。
牡蠣はイタボガキ科の二枚貝の総称。一言で牡蠣といっても、 その種類はとても多く、大きさや形もいろいろです。日本では楕円に近いごつごつとした形をイメージしますが、世界中には丸いものや平たいものなど、実にたくさんの種類があります。

日本の店先に並んでいるのは、ほとんどが養殖のマガキ。日本近海では、このマガキの他に、ニセマガキ、シカメガキ、スミノエガキ、イワガキ、イタボガキ、ワニガキ、ケガキなど25種類以上が確認されており、さらに、世界には100種類以上の牡蠣が生息しているとされています。やはり天然ものは少なく、アメリカ、 カナダ、 フランス、 オーストラリア、 チリ、 韓国、 中国などで養殖されたものがほとんどのようです。

また、北米やヨーロッパなどでは生食用が主なのに対し、 韓国や中国などは、オイスターソースなどの加工用が多く生産されています。
牡蠣は、オスとメスの区別がありません。棲んでいる環境や条件によって雄性が強くなったり、雌性が強くなったり、性を選ぶ面白い生物です。産卵期になると先に精巣が成熟してオスとなり、その後、卵巣が成熟してメスとなって産卵します。産卵後は雄性が強くなり、また環境の悪化でも雄性が強くなるそうです。

外見上から生殖腺が同じであるため、昔の人は、牡蠣は全て雄だと思っていたらしく、また、岩に張りついて動くことのない牡蠣が、なぜ産卵できるのか不思議に思い、牡蠣の文字に"牡(オス)"と"蠣(レイ)"(ごつごつした殻をかぶった貝の意味)という2つの漢字を当てたとされています。
日本の牡蠣養殖の発祥の地とされる広島は、全国の養殖牡蠣生産高の約6割を占めています。広島の牡蠣は殻が大きく長めで、身がぽってりとし、濃厚な甘みが特徴です。

次に生産高の多い宮城県三陸海岸の牡蠣は、黒潮と親潮が出合う外洋の荒波にもまれるため、殻が固く、身はジューシーで透明感があり、さっぱりとした味わいです。築地での評価の高いブランド牡蠣として知られています。

また、北海道の厚岸(あっけし)の牡蠣は、アイヌの言葉で"アッケシイ=牡蠣のたくさん採れるところ"に由来するとされ、本州でもその名が知られるようになりました。年間を通して水温の低い海域で育つため、殻が小さく、しかし身はぷっくりとし、味は濃厚です。一年中食べられる牡蠣としても珍重されています。
牡蠣の歴史は古く、ヨーロッパでは紀元前1世紀のナポリに遡ります。日本でも、各地の貝塚からアカガイやアサリ、 シジミに混ざって、 たくさんの牡蠣が発見されており、縄文時代の頃から食用されていたことがわかっています。

日本での養殖は、1673年(延宝元年)に現在の広島県で、小林五郎左衛門が、アサリの漁場を囲っていた竹の枝にマガキが付着することにヒントを得て始めたとされています。大正時代になると新しい養殖法が開発され、それが全国に広がり、生産量は飛躍的に上がりました。

魚介類を生で食べる習慣のないヨーロッパでさえ、牡蠣だけは昔から生で食され賞賛されてきことからも、いかに牡蠣が、世界の人々に愛され続けているかがわかります。
世界の歴史を紐解くと、 牡蠣を好んだ英雄や文化人が大勢います。ジュリアス・シーザーがイギリス遠征を行ったのは、 テームズ河口の牡蠣を手に入れるのが最大の目的だったと言われています。

かのナポレオンは、戦場で三度の食事に必ず牡蠣を食べ、数にして1日100個。フランス沿岸の天然牡蠣を食べ尽くしたとの逸話があるほどです。その後ナポレオンは牡蠣の養殖を推奨し、それがフランスの養殖牡蠣の起源となったと伝えられています。

また、 ドイツ帝国の初代首相ビスマルクが一度に175個、 文豪バルザックは一度に144個の牡蠣を食べた話も有名です。 リンカーンも牡蠣好きで知られ、よくオイスターパーティーを開いていたそうです。日本では武田信玄の牡蠣好きが有名です。
中国では、 すでに2000年前の薬物書「神農本草経」に、詳細に牡蠣の効能が記されています。また、400年前の漢方の古典書「日用食鑑」にも、 "膵臓や胃の働きをよくし、 寝汗を止め、 のどの渇きを取り、 二日酔いを防ぎ 、婦人病や精力回復にも効果大、 肌を美しく、 きめを細やかにする"などが明記されており、それらの効能は現代の科学ですでに実証されています。 今では東洋医学の生薬には欠かせない素材の一つとなっています。