半谷栄寿さんインタビュー:第1章

 

写真:半谷栄寿さん

 

半谷さんが代表を務めていらっしゃる「オフィス町内会」「森の町内会」の“町内会”というネーミングにはどのような意味があるのですか?

私は、福島県小高町(現:南相馬市)の出身で、昭和28年(1953年)の生まれですから、自分の頭に浮かぶ故郷の原風景というのはモノトーンな世界のような印象として残っています。そこにはいわゆる「町内会」という組織が活きていまして、冠婚葬祭の時なんかは近所の人たちが家族同然に助け合って関わり合うような姿がありました。 いまでも「町内会」という組織は多くの地域で存在しますが、隣近所のコミュニケーションはどんどん希薄になっていると言われていますよね。私も東京に住むようになって長いですが、そう実感します。私が、古紙の回収・リサイクルの普及を目的に「オフィス町内会」という団体を立ち上げた際、子どもの頃感じていた「町内会」が持つ“助け合いの精神”をコンセプトにしたいという発想がありまして、名に託したというわけです。

 

「オフィス町内会」は、古紙の回収・リサイクルの先駆的な存在として活動をされていましたが、そもそも古紙の回収・リサイクルを行おうと思ったきっかけは何だったのですか?

当時のご身分別

「オフィス町内会」を立ち上げた1991年、今から18年前になりますが、その頃は紙ごみと古紙の分別などということはどこもやっていない時代でした。駅にもコンビニにも分別ごみ箱が置いていなかった時代です。当時、私は東京電力の社員として、総務部に在籍をしておりまして、様々な文書や情報の管理を行っていました。どこの企業でも同じだと思いますが、企業は意思決定をおこなった記録や情報を書類(紙)という形で保管をし、ある一定期間が経ちますと、それを廃棄します。廃棄、つまり「ゴミ」にしていたわけで、当時は企業が出す紙ゴミで東京湾の埋め立て地の処理場は満杯になるのではないかと心配されていた時期でもありました。自分も仕事を進めていく上で、その媒体として「紙」を日常的に多く使っており、ゴミ問題の深刻化に加担していることに気がつきまして、逆に自分の仕事の延長線上に社会貢献活動ができるのではないか、と一種の責任感が芽生えたのです。

そんなわけで古紙のリサイクルを社会的に定着させようという志をもって、「オフィス町内会」を設立し、複数の企業間で古紙の共同回収をする仕組みの構築を目指しました。今年で18年も経ち、古紙の分別というのは多くの企業でルーチン化されましたが、当初は一口に“分別”と言いましても、何種類に分けたらいいのか、どのようなルールで分別をしたら良いのか、分別方法が会員企業の社員にとって負担のないやりかたとして成立するのか、また、ビル管理会社やゴミ処理会社、回収会社など、多くのゴミ処理に関わる立場の方々への配慮をしながら仕組みや契約を作る必要がありましたので、それなりの負担がありました。なにもかもが初めてのことでしたから。

 

オフィス町内会の“3つの志と活動”というスローガンの中に、「経済的な古紙共同回収」というものがありますね。ここでいう“経済的”というのはどういう意味でしょうか?

3つのスローガン

どんなに道義的に良い活動であっても、経済的な仕組みとして成り立たなければ継続はしないというのが私の基本にある考え方です。分別を行う企業、それを回収する回収会社、そして取り纏めを行う私たち事務局、全ての関係者が経済的に自立するようでなければ、いくら意味のある活動であっても継続しません。近年は、多くの企業が経費を費やして、環境への様々な配慮をすることが当たり前になってきていますが、当時はまだそのような意識は決して高くなく、企業や社会の環境問題への取り組みの黎明期と言える時代ですから、無駄なコストがかかるようでは長続きしない、と考えました。つまり、「経済的」というのは利益を得るということではなく、持続可能な経済性をいかに確立するか、ということです。

 

古紙の分別

現在、企業が紙を一般ゴミとして排出すると1kgあたり32円かかります。オフィス町内会の共同回収の費用は1kg当たり15円です。この15円という経済性は企業にとっては半分以下の経費で済むことになりますし、回収会社の回収を維持する費用も確保され(約10円)、事務局の運営経費(約5円)も確保されます。今でこそ、中国での需要に応え、古紙の値段は上がりましたが、昔から「古紙と卵の物価は上がらない」と言われたほど、古紙回収業界というのは経済的に厳しい時代が続いていました。社会的な活動だという自負があっても経済性を担保する、ということは非常に重要なポイントだったのです。

 

実際問題として10万人にもおよぶ会員企業の社員の方々に古紙の分別・リサイクルを浸透させるのには様々なご苦労があったのではないですか? どのような広報活動でそれを実現したのでしょうか?

さきほどのご説明でお分かりになる通り、企業レベルで考えれば社会貢献にもなり、経済的な利点もありますので、分別をしようという企業体としての意思決定は比較的簡単に整います。しかし、一番重要なのは実際に分別をする社員の皆さんからいかに理解を得て、協力してもらうか、ということです。それまでゴミ箱にポイっと捨てていた人たちに分別の習慣をつけるというのはそう簡単なことではありません。単に共同回収車を走らせて、会員企業を回るというのではなく、分別をする「思い」や「システム」、「ノウハウ」を共有し、仕組み作りから共同で行わなければと思いました。分別は何種類にすればいいのか、どんな色や形の分別ボックスを作ればいいのか、どの位の数の分別ボックスを設置すればいいのか、そういう仕組み作りについては事務局としては全力で取り組み、会員企業を支えました。

今考えてみるとそれが良かったのかは別ですが、我々人間の中に潜む「罪の意識」に訴えた啓蒙活動をいたしました。まず、分別箱を「免罪箱」と呼びました。どういうことかと言いますと、環境への配慮というのは、リサイクル(recycle)の前に、リユース(reuse)があり、その前にリデュース(reduce)が重要です。まずは使用を減らそう、出来るだけ再利用しよう、そして最終的にやるのがリサイクルです。裏紙を使ったり、メモ帳にしたり、頑張ってリユースしても紙はいつかその使命を終えることになります。紙を消費したこと自体が仮に一つ目の罪だとするのならば、それをリサイクルせずに一般ゴミにしてしまうのは二つ目の罪を犯すことになりますよ、と。分別を適切に行えば、それは面倒なことかもしれないけれど二つ目の罪は許されますよ、と訴えたのです(笑)。
多くの人に新たな面倒な行為をお願いするとき、「褒める」ということも重要ですが、なかなか「褒める」だけでは習慣にすることは難しいと思います。もちろん、ある程度定着した時に「褒める」と、もう止められないというインセンティブとして効き目があります。逆に、パトロールをしたり、叱りつける係を作ったりして分別をさせるということも現実的ではないですよね。結局は個人個人の思いで実行し、習慣にしていただかないといけませんから、地道に「罪の意識」に訴える「免罪箱の辻説法」をして各職場を回りました。

オフィス町内会の古紙回収袋とトラック