原田幸明さんインタビュー:第2章

 

原田幸明さん

 

以前、エコピープルではパナソニックが取り組んでいる「あかり安心サービス」というものを紹介しました。「あかり安心サービス」は、電球それ自体を売るのではなく、「あかり」という機能を売るという発想で、パナソニックは製品を提供してから回収するところまでを管理するというものでした。この発想は「都市鉱山」問題に対しても有効な考え方のような印象をもったのですが、いかがでしょうか?

ご指摘の通りだと思います。機能やサービスそれ自体に価値を持たせ商品化するサービスサイジングは脱物質化(Dematerialization)というシステムですが、未来の社会は基本的にはそういう方向に向かわなければいけません。消費者が使い終わったモノを処分するのに過剰な負担がかかるとなると、適切な処分がされなかったり、処分されないまま滞留したりするわけです。そうなってしまうと、せっかくのリサイクルの流れが滞ることになります。
サービスサイジングの成功例として挙げられるモノに、「レンズ付きフィルム」があります。「レンズ付きフィルム」の成功のポイントは、必要なのは機械本体じゃなくて、カメラ機能で撮った写真でしょ? というところです。実は携帯電話は同じことをしやすい状況があるんです。みんなが欲しいのは電話機ではなくて、電話をしたり、メールをしたり、インターネットをする機能と、そこに蓄積していくデータですよね? 機能は別の機械でも代用可能だし、今はデータもカード型の記録媒体に保存して、移すことができる。
しかし、まだそういう仕組みがなかなか確立されていないのです。世の中の先端を行っているはずなのに、そういった仕組みがついていっていないのが携帯電話の実状です。
ユーザーは最新鋭の機能を、コスト(対価)を払って獲得して、使い終わって飽きたらモノは返す。そうやって企業もうまく回収をしながら、次の発展型のモデルにうまくリユース資源を入れ替えていくことはきっと出来るはずです。

サービスサイジングが消費者にも受け入れられ、上手く循環するには消費者に対してのカスタマイズが必要です。それがないと市場原理に負けてしまいます。「レンズ付きフィルム」のリサイクル率をご存知ですか? ほぼ100%リサイクルされているように思っている方々もいるようですが、実際は30数%です。レンズなど有用性の高い部分を使い回しながら、早い回転の中で新しいモデルをどんどん出して、コントロールしたわけです。使用価値の高いリサイクルをしているわけなので、企業にとってみれば決して低いリサイクル率ではありません。

その他、「レンズ付きフィルム」と並んで、リサイクルがうまくいっている実例があります。オフィス用のコピー機です。家庭用を除く大型のコピー機はほとんどがリースです。使用する人にとってみれば、“コピー”という機能が満たさればいいわけですから、機械を買うという必要性を感じないのです。コピー機のリサイクル工場に行ってみると、生産工場のように同じ機種、同じ部品が並び、新たな製品として生まれ変わる日を待っている光景が目にできますよ。
また、コピー機のような大型機械特有の、リサイクルがうまく回る大きなメリットがあるのですが、何だと思いますか? それは“モノが大きい”ということです。大きければ大きい程、使い終わったら当然邪魔になる。処分するのも大変です。すると、運送屋のビジネスを生むわけです。つまりは、回収のシステムが出来るということです。実は、日本の家電リサイクルを上手に支えているのは運送屋さんの存在がキーワードです。その点、小型の機械はリサイクルしづらいということが言えるでしょうね。不要になってもそんなに邪魔にならないから自分の手元に置いておけばいいや、という気にさせてしまい、リサイクルの流れが止まってしまう。ノート型のパソコンなどは場所を取らない上に、みなさん、データの漏洩等を気にしますから、余計手元に残ってしまう訳です。

さて携帯電話に話を戻すと、携帯電話のような小さなモノを回収するには、消費者にとって納得できる仕組みを組み込まなければなりません。有償で引き取るというのもその方法のひとつだと思いますが、お金を出して回収するには、まだまだコストバランスが成立していません。現在の携帯電話はメーカーによっても機種によっても設計がバラバラで、そこから都市鉱石を取り出すための解体に大変なコストが発生します。携帯電話一台に潜む都市鉱石の価値は約120円だとしても、これでは到底元が取れないのです。いかに人手をかけずに再生率を高めるかがテーマになってくるのですが、それには、解体設計を前提にした技術発展が必要になります。しかし現状では、単純に解体しやすくすると、消費者が勝手に解体をして、壊れたとか水が入るようになったとか、クレームやトラブルのもとになるだけのような、まずは開けられにくいようにしておくというのがメーカーと消費者のコミュニケーションのレベルのようです。そういう状況を把握しながら、サービスサイジングと併せた回収システムをつくればいいわけです。そうすればメーカーしか開けられない極秘のネジがあっても成り立つ訳ですから。