ノマドの世紀に第8回

 

写真:モスクワ

タイトル

イランのビザのとなりに
イスラエルの入国スタンプの押された珍しいパスポートを持つ私が、
難なく入国できるモスクワで、同行した編集者が捕まって強制送還になった。
なんてこったい。
モスクワで入国してから気がついた。彼がいない。
彼からメールが入っていて、ごめん、何も変なことなんしてないんだけど
パスポートに難癖つけられて脅されてチケット取り上げられて破かれて
これから帰国便に乗せられます、と。
中国人は一日十人ほどやられてるみたい(笑)って言われてもさぁ・・・

さてさて大変なことになったわい。
取材資料もなにもみんな彼の鞄の中さ。
サンクトペテルブルクへ向かう飛行機の中でひとり、
またホテルへ向かう白タクの中でひとり、呻吟するもせんかたなし。

ギリシャワインと表記されたグルジアワインを飲みながら
(だってグルジアワインはロシアでは輸入禁止商品なんだってさ)
おぉグルジアは英語でジョージアって発音するのかい。
これがジョージア・オン・マイ・マインドなの。
安酒場のばずの店もミシュラン一つ星クラスの金を要求し、
味及び素材不明の韓国寿司バーでもぼったくられ、
キッパーをかぶった友人が説教する抱きキャバで
またもお金を使わされて氷点下のモスクワに放り出された私は、
ベストセラーの亀山ドストエフスキイを読む気にもなれず、
そのユダヤ人の友に荷風の日和下駄を読めと薦める。。

ハマーにのってドンペリをあけてペントハウスに暮らす
ニューリッチはキャバレー・ヴォルテールなんか知らない。
のくせ、クレムリンに程近いアメリカンな「GQバー」では北京のそれに近いノリの黒服が
かつてのわれらがバブル時代の手さばきで、あ、VIPルームへどうぞなどとぬかす。
おれ金持ってないんだけどさ。

もっとエコロジーを! と叫んでみた。
キャビアで黒く唇を汚した大女の向こうに
凍るクレムリンが光るバーで。
きつい酒はきつい。ヒリヒリする。
モスクワ在住の友人は、何を言ってるの、という。
エコロジーさ、と私はいう。
でもロシア人はアメリカが嫌いだからね、
そんなもんここじゃ流行らないよ、と彼はいう。
いまのエコロジーはアメリカン・ライフスタイルなんだよな。
欧米か、ってなタカ・トシのノリは
ここじゃ流行らない。。

んなことアメリカンなバーでいうなよな、って思ったけど
、 ちゃんと読んでもいないハンチントンの文明の衝突ということを少し考えた。
エコロジーが政局になっちゃいかんのだよ。

成田に強制送還された編集者からメールが来て、
やっぱ日本は緑が豊かでいいですね〜、と。
そうだよなぁ、きっとそうなんだよなぁ。