ノマドの世紀に第10回

 

写真:チベット

タイトル

急に入ってきたニュース。
チベットが、ラサが、燃えている。
どうして?
ダライ・ラマの教え子たち、
慈愛を語る優しい菩薩の弟子たちが
火の中にいる。

世界遺産であるとか、
密教芸術であるとか、
五体倒地の果てに行きつく
カイラスの高みから
観音菩薩は何を思う。

チベットの高地、
高山病になってしまうような高地を走る
高速鉄道のことを思い出す。
ゴルムド〜ラサを乗車して出会ったラマ僧は
ダライ・ラマの肖像を胸に忍ばせ
これは見せないほうがいい、とそっと
額づき接吻した。
抜けるような蒼い空の下で。

TVニュースの向こうに炎が見える。
煩悩の焔か。
人々が叫び、銃を持った男たちが
火に油を注ぐ。
バカげたことだ。
仏の住む雲の上で
なぜ人間はかくも愚かしい行為を
繰り返すのか。

天上にまで及ぶ百万年の愚行は
蜘蛛の糸から落ちた
カンダタを彷彿とさせる。
雲の上でCO2削減のための取引をする商人が
目の前で倒れた。
僕は以前チベットの友人からもらった仏頭写真の
伏し目がちで寂しそうな顔を見る。