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早稲田ルールの仕掛け人は、
本物のスーパーマン

安井潤一郎
さん
早稲田商店会会長・食品スーパー稲毛屋社長


やすい・じゅんいちろう
1950年東京・早稲田生まれ。早稲田大学中退。
都電荒川線早稲田駅から徒歩1分、食品スーパー稲毛屋の二代目社長。
1993年 早稲田商店会会長に就任。
1996年 商店会長として開催した【エコサマー・フェスティバル】※ごみゼロ平常時実験をきっかけに、環境を切り口にしたまちづくりに積極的に取り組む。いまや、その楽しくて儲かるまちづくりを柱とした「安井理論」をひっさげて全国、そして世界に幅広いエコ・ネットワークを構築中。 


※ごみゼロ平常時実験
ゴミをなくそうという発想のもと開催されたエコサマー・フェスティバルでの実績をふまえ、
イベントとしてではなく長期スパン、つまり平常時におけるゴミをなくす運動、実験の意。

◆関連書籍
『スーパーおやじの痛快まちづくり』 安井潤一郎著 (1999 講談社)
『ゼロエミッションからのまちづくり』(早稲田商店街のビックバン・ドキュメント) 
早稲田いのちのまちづくり実行委員会編著 (1998 日報)

「早稲田ルール」をご存知ですか?

東京都が提唱するペットボトルの回収システム「東京ルール」(現在都内4500ヶ所で実施。投入金額、年間14億円)に対抗して、安田会長を筆頭に商店街が立ち上げた民間主導型のリサイクル回収システムのことです。エコ・ステーションと呼ばれるポイントに、自動販売機のようなペットボトル回収機が立っています。この中に持ち寄ったペットボトルを投入。すると「アタリ」「ハズレ」と書かれたペーパーが出てくるのです。「アタリ」は商店会のサービス券を始め、過去開催されたイベント実施期間中には何と、海外旅行(!)まで、多彩にラインアップ。このシステムが大ヒットして、早稲田からペットボトルのポイ捨てが無くなりつつあります。今回は「早稲田ルール」の提唱者、安井さんを訪ねるべく早稲田に向かいました。

これがウワサの「早稲田エコステーション1号店」。元は不動産屋さんなので、不動産情報が窓面に貼られいるのも商人ならではの発想!


安井さんの拠点はご自分の会社、食品スーパー稲毛屋の二階、なんの変哲もない事務所の一室でした。特筆すべきはただ、安井さんの人なつっこい笑顔と魅力的な話術。それがさわやかな風を巻き起こして、あらゆる垣根を超えたユニークな人材を呼び寄せ、共にことを起こし、発展させ、いつの間にか、集まった当事者の面々をも進化させてしまう??。インタビュー開始早々、近頃早稲田周辺で吹くという噂の清風が、心地よくそよいだような気がしました。
では、正真正銘のスーパーマン、安井さんから教わった元気一杯の「まちづくり」をご紹介します。

<安井潤一郎さん直伝、エコなまちづくり4か条>

一、やりたいことは自分たちで企画する。
___ 行政は側面サポートの応援団!
一、楽しいことと儲かること。
一、無駄はいいが、無理はいけない。
一、自分で考えて、自分ひとりでも出来ることから始める。


<安井潤一郎さんのまちづくり・実践篇>
【エコサマー・フェスティバル】


「ことの起こりは不純な動機、商店街の夏枯れ対策だったんですよ」と衒いもなく話し始めた安井さん。確かに4年前の安井さんは、リサイクルやエコロジーとは無縁な存在だったのだろう。「誤解を恐れずに言えば、“リサイクルとか分別とかは、女子供のすること”と思っていましたよ。まして、商店のおやじが“リサイクルをしよう”なんて言い出したら、『お前も遂に選挙に出るのか』って言われるに決まってましたからね〜」。
早稲田大学のお膝元、夏期休暇で学生が一挙に去った早稲田商店街の夏枯れ対策に思い悩む商店会長は本当に必死だったろう。また、会長になって三年、そろそろ実績のあるイヴェントでも立ち上げなければならない時期にさしかかっていた。

その時、安井さんが思い付いたのが、地元の行政と大学を巻き込んで“何か楽しいこと”を自分たちで仕掛けることだった。でも、本音丸見えの夏枯れ対策のイヴェントじゃ、格好がつかない。そこで候補に挙がったのが旬のキーワード“環境”がらみの【エコサマー・フェスティバル】だった。この年(1996)は、東京都が事業系ゴミ収集の有料化に踏み切った年でもある。商店会のメンバーにとって、「ゴミ」が日々の営業経費に関わる問題としてクローズアップされた年でもあった。

リポート【エコサマー・フェスティバル】の成果

1996年8月、“ゼロエミッション一日実験”をテーマに、早稲田大学周辺の6つの商店連合会が結束し、リサイクルを促進するイヴェントを企画。まずは早稲田大学から大隈講堂前広場の解放を取り付け、新宿区清掃局の協力を得て、“環境を考える夏祭り”を実施。その内容は、粗大ゴミオークション、ゲーム付き空き缶・ペットボトル回収機の設置など、ゴミの回収をテーマに、誰でも楽しく参加できるよう工夫が充実。一日でなんと空き缶1300個、ペットボトルは130本を回収!

誰も損をしない設計

以来、早稲田界隈はこの4年間でめまぐるしく変化した。そして今では独自の姿勢で環境問題と取り組む町として注目を集める拠点になりつつある。その間、まだ学生だった乙武青年始め、さまざまな人を育て、実験的なプログラムに挑戦してきた。結果、まちには不思議な連帯感と元気な気分が充ちている。ここでは、今までの“まちおこし”とは一線を画する「早稲田ルール」が育っている。その実現の鍵は、自発的な意志に裏付けられた住民主導型の活動スタイルにありそうだ。つまり、行政に依存するのではなく、非営利の任意団体である商店会や大学、ボランティアの有志、そしてネット社会によって結ばれた幅広い情報ネットワークといった、意識や問題点を共有できる人たちによって無理なく運営される、楽しくそして誰もが損をしないプロジェクトとして設計されている活動だ、ということだ。

「楽しむことは“遊び心”。つまり知恵ですよね。“知恵”は知識や情報を活用することなんです。これは、さまざまな立場の違う人と連携することで生まれるんですよ。そして、儲かることも重要だと思っています。だってどんな良いことだって、金銭的に損をしてたら続かないじゃないですか! でもね、私たち商売人にとっての“儲かる”とは、謙虚なもんなんです。つまり、損しなければいいんです。そうすれば、その次がある。要はね、金銭だけでなく精神的なトクだって、儲かることなんですよ」


早稲田いのちのまちづくり実行委員会

「やってみなければ、分からないのが人生ですよ。だから試行錯誤の過程では無駄なこともしてしまうけど、無理なことを自分に課してはいけないと思うんです。」リサイクルをテーマに、安井さんが乗り出したまちづくりは、いまや教育問題、高齢化社会、住宅問題など、社会という生命体が持つさまざまな問題点を包括する運動へと大きく翼を広げつつある。“早稲田いのちのまちづくり実行委員会”という共生の理念をベースとした運動だ。安井さんの【エコサマー・フェスティバル】によって、垣根を越えて広く事態を捉えることが、社会を考えるベースだと実感した早稲田の住民たちは、決して無理することなく普段着のリサイクルとエコな生活を実践している。

→「早稲田いのちのまちづくり実行委員会」とは1996年12月、さまざまな課題を地域全体で考えて行くことを目的に結成された。自治的に展開されている“まちづくり”委員会

<早稲田いのちのまちづくり実行委員会の3・4・6>

早稲田いのちのまちづくり実行委員会では、以下の3つの信条4つの理念、6つのキーワードにそってさまざまな課題に地域ぐるみで取り組んでいます。

●3つの信条

1)自分たちのまちは自分で守る
2)あらゆる人とつながりあう
3)楽しさが一番、失敗を怖れない

●4つの理念

1)共生(人間は自然の中で生かされている)

2)平等(障害者・高齢者が安心して暮らせる環境)

3)温故知新(古き早稲田を学び、新たな早稲田を創り出す)

4)誇り(地域住人全員が誇りを持てるまちづくり)

●6つのキーワード
1) リサイクル
缶・ペットボトル、生ゴミなど、ごみゼロ平常時実験を発展させ、早稲田リサイクル・システムを作る
2) バリアフリー
障害を持つ人たち、高齢者の方々と共に、まちのバリア、大学のバリア、心のバリアを取り除く
3) 震災
東京地下地震などに備え、まちぐるみの力で人々の命を守る
4) インターネット
ホームページとメーリングリストを拡充し、情報の流れを変える
5) 地域教育
学校、大学とつながり合い、互いに学び合い、次代を担う若者を育てる
6) 元気なお店
零細商店、地元商店会の活性化に向けて知恵と力を集める

自分のまちが好きになる!

ポイ捨ての空き缶がまちから消えた早稲田のまちには、今年の上半期だけで、全国各地の21校、2700人の修学旅行生がやってくるそうだ。ゴミのリサイクルを徹底することから、まちがきれいになった。数十年前は汚かった神田川だって、今や早稲田のまちの景観として美しく生き返っている。「まちがきれいになると、まちが好きになる。そんなまちには。非行や自殺もなくなりますよ。」安井さんは、修学旅行の生徒たちに人を魅了する笑顔で、今日もきっと自分のまちの愛し方を伝授していることだろう。「環境は、まず自分の身の回りから。だって、何事も最初はひとりから始まるんじゃないかと思うんです」

生ゴミ処理機
家庭の生ゴミを堆肥化するコンポストもエコステーションに設置。ここでできた堆肥は地方の農家に送られ、有機大豆の肥料になり、できた豆腐がこの商店会で売られている。こんな小さな箱から循環型社会が誕生。


『早稲田エコマップ』はこちら

安井潤一郎氏著による
「スーパーおやじの
痛快まちづくり」


楽くて儲かる「まちづくり」の実践法だけでなく、読めば元気も湧いてくる痛快な1冊。

定価:本体1600円/
講談社より刊行