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■クルマを近代文明の負の被告席に
上がらせてはならない!

編集部:さて、本題の『ディーゼルこそが、地球を救う』を読ませていただき、びっくりしたのは、ディーゼルエンジンが発明された当初から環境への影響を意識したエンジンだったという点です。経済性や耐久性の高さなどは、知っているつもりでしたが、このルドルフの思想については初めて知る事実でした。

清水:アプロプリエイトテクノロジー(appropriate technology)という思想ですね。直訳すると“適正技術”となって無味乾燥な訳語になってしまうので、かなり長いのですが、発明者であるルドルフ・ディーゼルが開発にあたってイメージしただろう日本語に落とし込みました。ルドルフが目指したエンジンは【環境への影響、生産施設や技術の現状、労働力や市場規模などの生産性、文化的・社会的環境などに関連するすべての面でもっとも適切な技術】と定義されるべきでしょうね。

編集部:ルドルフ自身が、100年前のドイツで、その地域で生産できる再生可能な植物油や、多量に産出していた紛炭などを燃料として使うことを念頭においていたという事実には、哲学すら感じました。新しいエンジンを研究開発にあたって、普通の研究者なら条件の良い素材や扱いのしやすい原料を求めることで問題解決をするのが通常の思考回路のように思うのですが、ルドルフは全く違っていたんですね。

清水:ダイムラーとベンツが発明した最初の自動車の写真をご覧にいれましょう!
一目瞭然でしょうが、当時の時代のニーズをお分かりになると思います。蒸気自動車からガソリンエンジンへの移行が待望される中、発明家たちは、蒸気に変わるエネルギーを見つけ出し、その燃料効率を上げ、さらには車体に乗せるために軽量化されたエンジンの開発を最優先にしていました。このダイムラーとベンツが“かたち”として見せたエンジン自動車の華奢な車体は、蒸気自動車では成し得ないフォルムとして大きなインパクトがあったはずです。


ガソリンエンジンの発展の方向性はご指摘にように、より条件のいい素材や原料を選び出すことからスターとしていますが、ディーゼルエンジンはその誕生の時点から環境にコンシャスなエンジンだったと言えるでしょうね。
原料となる石油を精製し、最高純度のものがガソリン、ガソリンエンジンはそのガソリンしか受け付けないのです。もし燃料のガソリンに20%の軽油を混ぜたら明らかにトラブルが発生するでしょう。一方、ディーゼルエンジンに軽油とガソリンを半々注入したら若干騒音は大きくなるとしても、走行上のトラブルはおそらく生じないでしょう。つまり、それだけディーゼルはガソリンに比べて融通の利く、タフなエンジンなんです。
今後ますます発展するだろう“人間とクルマが共生する社会”において、僕たちが地球規模で考えなければならないことがあります。それをまとめると、こんなことになります。


2000年時点では世界の人口は61億人です。そして世界中で保有されているクルマは7.4億台と推定されています。この4年間で驚異的な発展を遂げた中国をはじめアジアや東欧各地の人々が所有することになったクルマの台数を加算すると、その数はさらに大きく伸長しているはずです。
しかも、過去100余年の歴史をベースにシュミレーションすると、2050年には89億の世界人口に対して、32億台のクルマが走りぬける時代がやってくることを予測されるのです。そして、それに伴う様々な環境負荷は2000年の4倍という数字まではじき出されています。このシュミレーションされた数字を私たちは甘く考えてはいけません。これは厳然たる事実として、それに備え、減少させるべく努力することが21世紀の人類全体に課せられたテーマなのです。
2030年には安定した石油の供給が危ぶまれると予測されるが、はたして石油の代替エネルギーはあるのか?
新エネルギーがあるなら、それに移行するプロセスでどのようなステップを踏んでいけばいいのか?
さらに、その移行へのシナリオは社会全体できちんと認知されているか?
21世紀をポジティブな“継続可能な発展の世紀”へと導くには、具体的なロードマップを掲げ、それに沿ってひとりひとりが生きていくことが重要だと思うのです。

編集部:そこで、ディーゼルの実力に清水さんは注目された訳ですね。

清水:その通りです。僕なりにクルマ社会の今後の状況を冷静に判断すれば、水素自動車という方向性でモーターリゼーションの世界は進んでいくのでしょう。
水素でクルマが動くという事実に、僕は個人的にもワクワクするような興奮を覚えます。ただ、その次世代を順調に迎え入れるにはまだまだ解決しなければならない問題や準備、導入、整備しなければならない社会システムなど、越えるべき課題が山積しているのです。
“クルマと共生する21世紀の社会”を構築するためには、未来をミスリードしない叡智と実行力が求められています。目先の利益や便利さに流され、人類が大きな過ちを犯すことはなんとしてでも避けなければなりません。
21世紀の最初の10年において、クルマを愛する僕たちのできる有効なライフスタイルとして、ディーゼル自動車に乗ること、整備されたクルマを大切に乗りこなすことを、僕は推奨したいのです。

編集部:世界的には、ディーゼル自動車はどのような評価を得ているのでしょうか?

清水:ひとことで言えば、「ディーゼルこそはハイテクだ!」です。
欧米での評価は、知的で環境に優しい高級車というイメージです。ですから、ディーゼル車を買うことは社会の成功者としてのステイタスシンボルのような位置づけすらありますね。実際、価格的にもガソリンエンジン車より高いので、こうした文脈は納得できます。

編集部:改めて、日本と欧米とのディーゼルへのギャップは劇的なものであることを痛感しますね。特に、昨今の石原都知事の「ディーゼル車NO作戦」以来、ディーゼル車のイメージは決定的に悪玉です。環境に優しいというディーゼルの最新の実像なんて、全く一般消費者には伝わっていないのではないでしょうか?

清水:確かにディーゼル車は、一部の整備不良車両の吐き出す黒煙のイメージで損をしていますよね。でもこれにしても、実際には心ないほんの一部の商業車に限られるのですが、やっぱり目立ったんでしょうね。
ただ、石原都知事は正しいことをしたと思ってます。というのは、今回の東京都の規制から学ぶことがたくさんあるのです。ディーゼルそのものが甘い規制で保護されてきたこと。その結果がディーゼル技術の遅れです。さらにロジスティックの問題も明らかにされました。全国で16%に充当する65万台のディーゼル車が登録されている東京都では、毎日300万台の通行車両のうち30万台がディーゼル車。それらが都民の健康を害する大気汚染との因果関係を指摘され続けています。他の都市に行くために大都内の中心部を経由する車両がこれほどの量で、通過するような都市は欧米には皆無でしょう。
それから、先ほどお話したマスキー法対策のおかげで日本車の排気ガス対策は徹底していたのですが、今回問題視されている窒素酸化物(NOx)や粒子状物質(PM)への規制は遅れをとっていたことも事実です。車検などの徹底、道路整備の考え方、現実的でない規制、これがディーゼルに対して、結果的に大きな逆風になってしまったのでしょう。

でも様々な理由や反省はあるとしても、僕たちが“今、するべきこと”は、未来に対しても責任ある決断をしていくことだと思いますね。
まずは、クリーンで経済的なディーゼルエンジン車が目の前にあるという現実にちゃんと向かい合うべきです。様々なタイプの燃料を受け容れるディーゼルは低燃費であり、クリーンなエンジンなんです。石油一辺倒の燃料ではもう対処できないことがはっきりしている現在、日本もそろそろディーゼルへの偏見から脱却し、世界と共に“脱ガソリン”という世界の大きな潮流に合流すべきではないでしょうか?

もちろん、ディーゼル車が今後普及するためには、更なる改善や改良を期待しています。価格面等において、メーカーにはもっと努力をして欲しいと思います。ただ、そのためには賢明な消費者がディーゼルを理解し、購入しなければメーカーは適正価格での製造ができないのです。
社会全体が成熟した思考を持ち、“自らがするべきこと”を自覚し、実行することが、地球にポジィティブな未来をもたらすはずです。
地球温暖化の問題、化石エネルギーの枯渇、リサイクルの問題、さまざまな現実と正面から向き合うことで、対策が立てられるのです。
僕たちに“モビリティー”という素晴らしい自由を与えてくるクルマを「負の被告席」に坐らせることは断じてさせない、それが僕の率直な気持ちです。
【END】
▼PAGE1/それはまるで“ブラックホール”に陥るような感覚だった
▼PAGE2/こんなドライバーにはハンドルを握る資格はない!
▼PAGE3/クルマを近代文明の負の被告席に上がらせてはならない!

【ecobeing】推薦・主要著作

ディーゼルこそが、地球を救う
―なぜ、環境先進国は
ディーゼルを選択するのか?

共著:小川英之、清水和夫、金谷年展
ダイヤモンド社
ISBN:4478871019

『クルマ安全学のすすめ』
著:清水和夫
NHKブックス813
ISBN:4140018135

『燃料電池とは何か
―水素エネルギーが拓く新世紀

共著:清水和夫、平田賢
NHKブックス905
ISBN:4140019050