バンクーバー島の南西部にあるクレクゥオット海峡は、ユネスコが人類全体にとって大切な自然環境として保護しようと提唱したエリア。そこに浮かぶフローレス島には、4000年以上前からファースト・ネーションの人々が（注１）暮らしていた。彼らの祖先は、夏と冬とで食料を得る場所が違っていたので、それらを結ぶ「生活の道」があった。しかし、人々がかつての暮らし方から離れるにしたがって、その道も忘れられてしまっていた。

　島の住民ヌー・チャ・ヌル族の数人の女性によって、この古道を復活しようという運動が始まったの1993年のことだ。祖先のたどった道を歩くことは、そのまま自分たちの文化と歴史をたどることでもあった。朝霧にしっとり濡れた柔らかな苔に覆われた深い森、白頭ワシが大きく羽を広げて上空を飛ぶ静かな海岸、部族の伝説の舞台になった様々な場所を通る約11kmのルートの再生は、島民の誇りと伝統の再活性化のきっかけにつながった。

「小さな子どもと一緒に部族の言葉を習うのは少し恥ずかしいけれど、僕はようやく自分（注２）を取り戻せたよ。」と明るい声で語ってくれたのは、この『ウォーク・ザ・ワイルド・サイド・トレイル』の建設に携わり、今もガイドとして働いているマイク・サム氏。島の伝統的なカヌーの造船術や彫刻を中心にした工芸も習っているのだと瞳を輝かせる。

　トレイル保全の協力金を払えば単独でも歩けるが、できればサム氏のような地元のガイドに案内してもらおう。トレイルの途中には所々に部族の伝説とそのエリアの関係、自然環境に関する解説を記した看板が立てられている。そうした部族の文化的背景や、大自然と調和して生きてきた人々の暮らし方について語るガイドの言葉を聞きながら、「現場」を歩いてみるのは、自分の日常生活のありかたを見つめ直すチャンスになるかもしれない。

　歩きにくい所や特に環境を保護したい場所は木の歩道が作られているが、ルートのほとんどは狭い自然の道。しかし、高低差があまりないし、干潮の時は海岸を歩いたりもできるので、ハイキングとしては初心者でも大丈夫。ただし、熊やクーガー（日本ではピューマと呼ばれる）などの野性動物もたくさんいるので、それなりの注意も必要。