見出し:第三部

 

写真:竹田津実先生

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先生が特にお好きな野生動物というのは何でしょうか?

写真:キツネ

動物はどれも可愛いし、どれもそれぞれに魅力があるから難しい質問だなぁ。でも、カラスにキツネかな。彼らは本当に面白い! 実によく人間の行動を観察している。だから、人間の行動パターンが彼らにすぐに反映されています。彼らはまさに人間の鑑だね。

 

キツネの生態に興味をもたれたきっかけは何だったのでしょうか?

双眼鏡

北海道の網走管内小清水町で家畜の獣医師として勤務していたサラリーマンの僕にとって、キツネは好都合な時間帯に行動パターンを持つ動物でした。彼らは午前3時から7時半ごろまでと、夕方の4時頃から8時頃までが活動の時間です。だから獣医の仕事に支障をきたすことなく、しっかり生態調査ができた。彼らとは本当に永い付き合いになった。キタキツネの調査は現在まで続けていて、最近はキツネが僕に恩返しをしてくれているような気がするんですよ。

 

恩返しですか?

キツネ

そうなんです。「キタキツネ物語」のあと、獣医である僕のところに怪我をした野生動物が次々に持ち込まれるようになりました。北海道で獣医師として勤務するということは、酪農家などで飼育されている牛などの家畜の健康管理することです。でも、これは都会のペットを扱う獣医さんとは全く違う価値観で動物たちに臨み、彼らを診断し、治療する仕事なんです。つまり、僕の診ていた家畜たちは人間に利益を与えてくる、生産性のある動物であることが彼らの基本的な存在理由。もし、彼らが生み出す生産性と治療費の折り合いがつかなくなれば、彼らは切り捨てられる存在です。
そんな世界に自分はいた。傷ついた動物たちを僕に持ち込んでくるのは、小学4年生までの子供と65歳以上の老人たちです。彼らは傷ついた生き物を見てみぬふりができない、つまり弱者を見捨てることが出来ない心の持ち主、弱者からの「助けてくれ!」という信号をキャッチできる人たちなんです。僕はそのやさしさに技術者として寄り添う役を得て、キツネは彼らの優しさを受ける患者、つまり主役を演じている。

53歳のとき、僕は獣医師として公職を辞し、野生動物の診療所と文筆活動に専念する道に踏み出しました。キツネは僕に生き方を変えるきっかけをつくってくれた。そして、その後もずっと、すぐ近くで信号を発し続けてくれているような気がします。

 

先生の診療所にはどんな動物がやってきますか?

診療所

もうさまざま! 一時期は毎日、30匹から40匹の動物の面倒をみていたこともあります。でも今はなるべく入院させないようにしています。というのも、野生動物を飼育することは法律で禁じられていますし、治療したからには退院してもらわないと困る。つまり治癒したら、もう一度自然の中で自立して生きることが前提になります。野生動物を治療することは獣医の仕事だとして、その後のリハビリなどのお世話はまた別のことです。厳しい野生の世界で生き延びる力がない場合、そうした動物に誰が一体責任を持つのか?

僕は自分が果たせる責任の限界を冷静に見極めて、彼らと向かい合っていきたいと思っています。

 


写真:竹田津実先生

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近年問題になっている外来生物の国内流入についてはどうお考えになられていますか?

現実問題として、外来生物が入ってきてしまった以上、これはどうしようもないでしょうね。なんらかの事実が確認されたら、今後起こりうる事態に対して現状はどの段階にあるのかを見極め、然るべき行動指針を立てるべく大いに論議すべきでしょうね。いずれにしても点の論議ではなく、線としてシミュレーションを検証して、深い論議をし尽くすべきしょうね。

今までは、ほとんど学者の役割としてやってきた。でも、その結果として今がある。我々は起こった結果について、今こそ十分に考える必要があると思います。

ある事実とその周辺、それから先に起こる事態を予測しながら永い時間のスパンで考える姿勢がなによりも大切です。他人任せにしないで、自分のこととして取り組むことが、今後の大きな課題のひとつでしょう。