エコピープル|レポート10:岡山大学教授・農学博士 景山詳弘さん


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サスティナブル・アグリカルチャーを目指して


Q.食糧をどう考えるか、グローバリゼーションの中で、日本人の農業に対する考え方も、見直されるべきときなのかもしれませんね。

A.最初に少し触れましたが、cultureという単語は「耕す」という意味と「文化」という二つの意味を持ちますね。農耕が始まったのが1万年前。面白いことに世界中でほとんど同時に農耕が始まっているんです。300万年前から500万年前くらいに人間の祖先は生まれたといわれていますが、それから何百万年という間、人

実験ハウス内の景山教授

間は自然の中の一員であったわけですね。イノシシやタヌキといっしょで、木の実を拾ったり、木の根っ子を掘って食べるということをしていた。ところが、1万年前から、始めは棒切れ一本だったんでしょうか、耕すということを始めました。走り回って食糧を確保しなくてもいいように、種を蓄えて、苗を植え、食べ物を得るようになりました。ここで、定住が始まるわけですね。そして、定住が始まるところに文化が生まれたのです。家族をつくり、部族をつくっていく。その中で伝承されていくものができる、これが文化なのです。
 日本では、縄文時代の後期から水田耕作が始まります。これはたいへんなことなんですよ。水田を作るには水を張りますね。だから、地面をまっすぐにならさなければならない。これは、たいへんに高度な技術なんです。水田耕作によって、日本の土木技術は飛躍的に発達しました。静岡県の登呂遺跡なんかでも、今見ても驚くほどの灌漑設備がなされています。
 農業は、日本の文明を広く発展・普及させていったわけです。それは、稲作だったからでもあるのです。毎年、同じ場所で同じ食物を作っていく、いわゆる連作は非常に難しいですからね。
 皮肉なことに、こうした人間の文化の始まりは、自然破壊の第一歩でもありました。そもそも自然生態系は、mixed community つまり、混成の生態系です。山に行けば樫の木があり、萱があり、他の植物もぼうぼうと生えています。農耕によって自然生態系は変化を余儀なくされました。つまり、人間が同じ場所に同じ作物を育てようとしたとき――これをmono cultureといいますが――、自然破壊が

夏休み中も学生が実験のために登校して作業中

始まったとも言えるわけです。地球上でもっともわがままで傲慢な人間という動物が農耕を始めた1万年前に。よく「このままでは地球が滅びる」と言われますが、地球は滅びませんよ。人間が滅びるんです。地球は太陽系の惑星として何百億年かは滅びないでしょう。自然の破壊者となってしまった人間は、それでも、生きていくために農耕を行わなければなりません。このとき農業生態系と自然生態系の折り合いをつけることが、非常に大切になってきます。
 最近、サスティナブル・ディベロップメント(sustainable development:持続可能な発展)という言葉を耳にしますよね。僕たちが言うのはサスティナブル・アグリカルチャー(sustainable agriculture:持続可能な農業)です。サスティナブル・ディベロップメントのベースは、サスティナブル・アグリカルチャーだと思いますよ。だって、人間は食べなければ生きていけませんからね。そして、サスティナブル・アグリカルチャーのモデルは東南アジア、特に日本の稲作にあると思います。日本の稲作には、少なくとも3000年続いてきた、サスティナブルであったという証拠があるのですから。サスティナブル・アグリカルチャー、引いては、サスティナブル・ディべロップメントを考えるとき、日本の稲作という原点に帰って考えることは、とても有効だと思います。アメリカの農業などは、おそらく今後そう長くは続かないでしょう。現に、風食や水食といった土壌がやられる現象が起きています。それは、アメリカの農業が土を養ってこなかったからです。日本の稲作は、あと3000年くらいは大丈夫じゃないでしょうか。これまでの農家が土地を大事にしてきましたから。だからこそ、受け継いだ我々はそれを守る責任があります。20世紀の科学は、ものすごい勢いで発達してきましたね。5年がそれ以前の100年に相当するような勢いです。21世紀というのは、20世紀の科学を一端振り捨てて見て、その反省の上に立って創られるべきものだろうなぁ、と思っています。>>次のページ


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