景山詳弘さん


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ついに、リバーエコ炭の実験結果を聞く


Q.土壌の大切さ、江戸時代のリサイクル理念を伺ったところで、いよいよリバーエコ炭の実験結果について教えてください。

A.僕のところには、いろいろな企業から産業廃棄物が作物を育てる栽培用土として使えないかという実験の依頼があります。僕は基本的にそういった実験はお断わりしてきました。けれども今回、川鉄のこのリバーエコ炭の実験を試みようと思ったのは、ごみが非常に大きな社会問題だからです。実験自体は、始めてから1年に満たないんですけれどね。
 先ほどの話の流れからいけば、ごみを有機物として土に戻すのがいいわけですが、このリバーエコ炭は無機物なんです。炭は無機物ですから。より望ましいのはごみをごみのまま戻すことです。RDFはごみを粉砕して、乾燥させて、圧縮したもの。つまり、リバーエコ炭よりはごみに近い。ですから、理論的にはRDFのまま戻した方がいい、となります。

Q.でも、RDFにはプラスティックのごみも含まれています。それでも、そのまま戻した方がいいのでしょうか。

A.そこが問題なんです。プラスティックは有機物ですから、このまま土に戻せば、万物は土に帰るということになるはずです。でも、プラスティックはやっかいな状態になっている。人間が高分子化合物にしてしまったわけです。だから、分解されにくい。僕がいちばんいいと思うのは、高分子化合物を分解する微生物を見つけることです。大学には微生物の専門家もいますから、先日いろいろ議論したのですが、あるんだそうです、そういった高分子化合物を分解する微生物というのは。ただし、スピードがものすごく遅い。だから、そのうちに分解されるけれども、何しろ人間が作り出すスピードはすさまじいですから、追いつかない。高速で分解する微生物があるのがいちばんいいのですが、今はない。仕方が無いですね。RDFはそのまま埋められない、となる。リバーエコ炭はRDFを乾留したものです。高温で酸素を制限して燃やすんですね。酸素を入れて燃やすと灰になりますが、こうした乾留によっても、RDFはすでに有機物ではなく、無機物になっています。だから、これを土に戻しても有機物としては土に帰りません。もっと長い年月を見ればわかりませんが、少なくとも数千年では帰らないわけです。本当は有機物として土に戻したいのですが、その辺が難しいんですね。そこで、炭にすると量が減りますね。これを土に戻せば、土は先ほどお話したように有機物と無機物の混合物としてできていますから、リバーエコ炭は無機物の部分に入っていく。ある意味では「土に帰す」と言えるわけです。膨大な量を少なくして土に帰すということです。

Q.そこで先生は、このリバーエコ炭を土に帰したときに、植物の生育がどのようになるかを実験されたわけですね。実験データを見せていただいたんですが、このデータから、リバーエコ炭を土に混ぜると、植物の生育に効果があると考えていいのでしょうか

A.まだ、手放しではそうとは言えないですね。ただ、活性炭(activityを持った炭)の働きに効果を見出すことができるかと、僕は考えているんですね。粒子の間に空気を持つとか、科学的な吸着作用があるとか、ね。次の4つの効果が考えることができると思います。

1. 土壌物理性の改善(透水性、通気性:やわらかい土になる)
2. 土壌化学性の改善(養分補給、緩衝作用=buffer action、有毒ガスの吸着)
3. 土壌生物性の増殖(有用微生物の増殖)
4. 地温上昇効果(小動物の増殖)

これらは総合的に効果を発揮すると思われます。特に1番の効果です。これは、排水がよくて、保水性のある土になる、ということが期待されるわけです。
 実験を始める前、僕は活性炭というのは木を炭化しても、ごみを炭化しても同じものだと思っていました。だから、リバーエコ炭を土に混ぜれば、活性炭の特徴である4つの効果が現れるはずだったんですね。ところが、リバーエコ炭の場合、ごみというものを炭にしたために、何か別のものが入っているようなんです。ダイオキシン類は分析してもらった結果、クリアしていました。だから、大丈夫だと思っていたんですが、もし、リバーエコ炭が活性炭だけならば、あり得ない実験結果が出たんですね。このスプレーギクの実験です。

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 この10個のプランターには一様に培養液が施してあります。そして、左から全部を培養土したもの、1割エコ炭を混ぜたもの、2割、5割混ぜたもの。真ん中はエコ炭だけで育てました。右半分はエコ炭とマサ土を混ぜています。マサ土というのは花崗岩の風化土です。山土とも言いますが、粒子は大きいものから小さいものが混ざり合い、植物の影響をまったく受けていない100%無機物です。いちばん右はマサ土のみ。右から2番目は1割エコ炭を混ぜています。3番目は2割、4番目は5割です。写真からわかるように、1割から2割混ぜてやると生育がいいようですね。エコ炭を混ぜることによって、土の中にすき間ができて、空気と水がたくさん入り、根がどんどん伸びるわけですね。これで見れば、かなり効果があると言えます。ただ、先ほどお話したように、リバーエコ炭が活性炭だけならば、真ん中のエコ炭だけで育てるスプレーギクがよく生育するはずなんですね。ところが、マサ土だけで育てたスプレーギクよりも育っていない。そこで、これは何かあるな、と思ったわけです。つまり、普通にいう活性炭ではない。一つ考えられるのは塩化ナトリウムですね(NaCl)。ごみに混ざった味噌やしょうゆなどの調味料から残るわけです。リバーエコ炭を一度洗って塩化ナトリウムを除くと生育状況がいいので、塩化ナトリウムの影響は考えられると思っています。

それぞれのゾーンは区分けと明確にエコ炭-マサ土の割合いを表示

 それから、亜鉛ですね。どうも微量な亜鉛が混ざっているようなんです。亜鉛は植物にとって必須微量栄養素ですが、限度を超えると植物の生育に悪い影響を及ぼします。しかし、ごみにどうして亜鉛が混ざるのか。分析をしてもらって考えたのが、紙に印刷したインクです。これしか考えられない。これが生育に何らかの作用をしているのかもしれないですね。

Q.では、リバーエコ炭の効果はあり得るものの、決定打にはなっていないと考えるべきでしょうか。

A.ところが、ですね。リバーエコ炭を入れた方が決定的に生育がいいものがあった

んです。ストックです。これは、リバーエコ炭を入れた方が明らかによく育つ。塩化ナトリウムがプラスに効いているんじゃないかと思うんですよ。

 この実験結果から、実際にストックを育てる園芸農家にリバーエコ炭を使用してもらおうと思っています。川鉄さんにもたくさん製造してもらう必要がありそうですね(笑)。

Q.こういった実験写真を拝見すると、リバーエコ炭の効果にせよ、その使い方にせよ、すべては植物が教えてくれているのだなぁ、と思わされます。

A.そうですね。僕たちの研究はすべて帰納法なんですよ。最初に命題を打ち立てる演繹法ではなく、植物を育てながら一つ一つ真理を探り当てていくんです。そうして見つけたことを農家の方に話すのが、僕はいちばん楽しいですね。
 農業は、今、難しい局面に来ているともいえますね。食糧危機というのは、徐々に徐々に起こるのではないような気がします。あるとき突然にクライシスが起こるのではないでしょうか。数年前の米不足もそうでしたよね。
 何百年、何千年と耕してきた農家にしてみれば、現在の農政は辛いですよ。もう、自分のためにしか作物を作らない、と逆説的に宣言する人も現れています。21世紀は20世紀の科学を見直す世紀だとすれば、農業も見直されなければならない。
 明日は、バラを育てる農家に、ある画期的な栽培法をお話にいきます。僕の仕事は人と植物が相手ですから、365日休みがありません。ほとんど毎日大学に来ていますね。でも、僕はそれが楽しいです。こうした実地の係わり合いの中から農業のことを話していきたいですね。

インタビューを終えて

 2時間ものインタビューにお応えくださった先生、ありがとうございました。インタビュー後、先生の実験場である温室を見学させていただきました。中は、自記温度計の針が振り切れるほどの酷暑。振り切った目盛りは45度でした。
「暑いでしょう。でも、元気な花もあるんですよ」ふうふう頭から湯気を出して歩く編集部に比べ、炎天下でも先生はとてもお元気で朗らかでした。「先日もここで学生たちとバーベキューをしたんですよ」
 温室の隣の木陰はなるほど、バーベキューに打ってつけのスペースで、ふと、景山研究室の学生さんを羨ましく思ったりもしたのでした。END


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付記:景山先生お薦めの書籍

● 『愉快な百姓』佐藤藤三郎・著(晩聲社)
● 『身土不仁の探求』山下惣一・著(創森社)
● 『百姓仕事が自然を作る』宇根豊・著(築地書館)