Kazumi Oguro 
1950年東京生まれ。(株)マガジンハウス在籍中、雑誌「ブルータス」「ガリバー」の編集を担当。「ブルータス」編集部在籍の7年間には、中国、ブータン、ニューヨーク、ブラジル、アフリカなどを取材。また、デビュー後間もなかった村上龍の初の連載小説「テニスボーイの憂鬱」を仕掛ける。1990 年マガジンハウスを退職し、トド・プレス設立。92年、ケニアに自らが手がけたアフリカ人アーティスト、ムパタの名をとって、ムパタ・サファリ・クラブを開設。95年には日本相撲協会創立70周年記念の出版物「大相撲」を、カメラマンの篠山紀信氏とともに制作。その他、テレビでは「ワーズワースの庭」、「メトロポリタン・ジャーニー」、出版物では「中田語録」の編集、「スガシカオ1095」の出版など、各分野で数多くのプロジェクトに関与。99年、世界初の環境ファッションマガジン「ソトコト」を発刊。自らが編集長を務める。



築地の路地は、懐かしさと新しさが混ざり合った心地いい空間。
ビルの谷間に、こじんまりした公園や間口の小さな和菓子屋さんを
見つけて、編集部は心弾ませながら、
目的地であるソトコト編集部を訪ねました。
ソトコト誌は、このHPの読者なら必読の雑誌でしょう。
当エコビーングも誌上でご紹介いただきました。
その編集長、小黒一三さんが今回のエコピープルです。

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新しい価値観“LOHAS”


――貴誌が提案しておられるスローライフ、スローフード、スローモードなどの、「スロー」の意味を教えていただけますか?

ソトコトの読者は、「このままいくとなにかへんだな」と感じているんだと思うんだよね。現状に自分でクエスチョンをつけて、立ち止まっている。“今”というのは、そういう過渡期なんじゃないかな。誌面で“スローライフ”って提案すると、「昔の暮らしが正しかった」という意味に受け取る人もいる。あるいは、「田舎の暮らしがいいんだ」と思う人もいる。だけど、僕は全然そんなふうには思っていないんですよ。やっぱり僕は編集者だから新しいことが好きだし、時代が新しくならなければ面白くない。だから、スローライフも「昔がよかった」ということではなく、過渡期であるという新しいテーマなんですよ。立ち止まって足元を見直す時間。僕は今、そういう時間だと思うし、それをソトコトで「スロー」と言ってるんだけどね。

――いろいろな捉え方があるにせよ、スローフードを筆頭に、「スロー」がだいぶ根付いているように感じますが、いかがですか?

きっと、もうすぐ別の価値観が現れると思うよ。昨日、地下鉄雑誌「メトロミニッツ」(スターツ出版刊)を見てたら、もう紹介してたから驚いたよ(1月20日発売号)。“カルチャラル・クリエイティブ”って。僕も“スローライフ”の次に打ち出すキーワードを探していて、それを“カルチャラル・クリエイティブ”って言葉にしようとしてたんだ。『スロー・イズ・ビューティフル』の著者でもある辻信一さんに教えてもらったんだけどね。
“カルチャラル・クリエイティブ”は、1998年にアメリカの社会学者ポール・レイと心理学者シェリー・アンダーソンが、新しい人々のあり方として提唱した概念。エコロジーや地球環境、人間関係、平和、社会正義、自己実現や自己表現に深い関心を寄せる人たちのこと。10年以上の調査の結果、導き出した人間群像なんだってさ。

このカルチャラル・クリエイティブに注目した企業がまた、LOHAS(Life of healthy and sustainabilityの頭文字)っていう言葉を開発して環境をテーマにしたビジネスを始めた。いまやアメリカ全人口の30%がLOHASコンシューマーだという調査結果もあって、「LOHASジャーナル」っていう雑誌も創刊されている。
要は、イデオロギーの右、左を問わない人種が育ってきてるんだよね。右翼だ、左翼だっていうのはウザッタイな、と感じていて、もっと何か新しい価値観、もっと大事なものがあるんじゃないかと思っている人たちが、今、出てきてる。環境問題にしても、開発が悪いといってもグリーンピースみたいに抗議活動を主体にするのもいやだナ、と。環境を守るといっても行動自体には攻撃性がある集団じゃないか、という冷めた見方ができる人々が育ってきてるんだよね。

そういう意味で、田中康夫はシンボリックな存在だと思う。好き嫌いは別としてさ。彼が失職して県民の審判を仰いで、あんなに得票したじゃない? 保守的だといわれる長野でだよ。やっぱり民は馬鹿じゃないんだよね。正しい考え方をしたいな、と思う人が育ってきてる。僕はそう思うのね。

お祭り騒ぎじゃなく、もっとまじめに楽しく生きたいと思っている、そういう価値観が育っていると思う。カルチャラル・クリエイティブをはじめとして、ね。ただ、まだはっきりとは見えてないんだよね。
だから、“スローライフ”っていうのは、そういうふうに「考え直したいナ」と思う人たちが考える時間、その状態を指しているんだと僕は思っているんだけど。

まあ、僕がこれまでずっとやってきたのは、ライフスタイル・マガジンだからね。
今、いちばんおしゃれな生き方を考えると、そういうLOHAS的な生き方なんじゃないかと思う。つまり、環境コンシャスってことが、今いちばんおしゃれなんじゃないかと思うんだよね。>>PAGE-2