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最新技術と社会科学の出会いが地球を救う

Q: こうやってお話を伺っていると、一般的に広まっている炭に使い方にはかなり問題がありますね。

A: そうなんです。僕たちの啓発活動がまだまだ不充分なこともあるのでしょうが、炭の効用が過大評価され、知識のないままでの“精神的な癒し”のレベルにとどまることは大変残念です。何よりも、既に炭の吸着力が飽和状態に達した炭をそのまま使うことで、逆に害が出てしまっては何の意味もありません。

Q: 例えば、炭に吸着された有害物質は、どのように処理するのでしょうか?

A: 吸着されたものは、取り出して消去しなければなりませんが、焼却することが多いです。処理するためには、最終的に土に戻すという循環系にならないと
ダメなのです。環境ホルモンなどの有害物質を吸着した炭など、毒性の強いものは無毒化して処理しています。ただ、ここで是非考えてもらいたいことがあるのです。たとえば、有毒なものが発生したとします。その場合、技術の世界での最終目標は有毒物質をゼロにすることでしょう。僕たちは、それに向かって最大の努力をします。そして、限りなくゼロに近い数値へと近づけることができるかもしれません。でも、ゼロそのものにはなり得ないのです。たとえほんの微細な量かもしれませんが、なんらかの負荷が未来に対して残ってしまうという事実を忘れてはならないのです。具体的に言えば、竪穴式住居に住んでいたころだって、魚を焼いたり、塩を使ったりすることでダイオキシンは発生していたのです。つまり一度発生してしまったものをゼロにすることは不可能なため、それらが未来に向かって微細な量だとしても地球に徐々に蓄積されてしまっているという事実です。

Q: このような問題を考え出すと、どうにもやりきれない気分になりますね。

A: 現在のようにさらに問題が複合的にいくつも重なり合って、日本全体の問題、さらには地球全体の問題としての解決を目指さなければならない時代においては、技術の分野の人間は、哲学とか経済学、社会学などの社会科学の見地からの“想い”も踏まえて、目の前の事実を捉える姿勢が必要になります。同時に社会科学の分野の識者も、思考を深化させるプロセスで、最新の技術の進歩をしっかり勉強する姿勢が重要になってくるように思うのです。
これは僕の持論ですが、環境問題を改善するには、技術と社会科学の叡智が歩み寄り、そのバランスがフィフティー・フィフティーになるべきではないかと考えます。科学は万能ではないのです。哲学もまた然りです。

Q: 化学者である先生が、何故そのようにお考えになるに至ったのですか?

A: 僕は長年にわたって環境問題、特に水処理の分野で研究を続けてきましたが、常に現場主義でした。“目の前にある現実としての問題を解決するために、どのような実験や研究をするべきか?”というスタンスが僕の一貫した基本姿勢です。例えば、直面する問題解決に対して明らかに有効な薬品があったとします。ただそれを実際に使用するにあたって、最も重要なことは、本に書いてある事実だけではなく、現場でそれがどのように作用するかを身体で感じながら実行する姿勢です。机上の知識だけでは不充分なのです。現実の場面で、研究成果であるデータがどのように作用するかを慎重にイメージしながら行動する姿勢が何よりも重要になってくると思うのです。初歩的なミスや基本的な確認を怠ったために、多くの不幸な事故が起こっていることは残念なことです。頭で理解している知識をさらに一歩進め、身をもって察知できる広い思考こそが、環境を守る上で最も要求される能力だと思います。

Q: それは環境に対して“五感を研ぎ澄ます”という意味でしょうか?

A: 「見る」、「聴く」、「嗅ぐ」、「触る」、「味わう」、人間の持つこの五感は、自然界が僕たちにひそやかに語りかけているさまざまなサインを、キャッチする最良のセンサーだと思うのです。というのも、大学の研究室ならいざ知らず、一般の家庭には危険物質等を図る計器などないでしょう? まず自分が、「変だ」とか、これは「危ないかもしれない」と感じることができれば、第一段階における危険はかなり回避できるはずです。循環する地球の生態系の一部としての自分を自覚し、それを感じる力こそが、環境を守り、自分も守る力になると僕は考えるのです。

Q: 最後に、炭についての最新の状況と今後の先生のご予定をお聞かせいただけますか?

A: 炭には電磁波を吸収し、シールドする働きがあることもわかってきました。さらに環境浄化材、保険医療資材、介護や癒しの資材などへの応用も期待されています。21世紀は、生命尊重の世紀と言われていますが、炭はお互いに共生できる環境を復活させるためにも重要な素材です。
僕はこうした力を持つ炭への理解をさらに深めるため、一般ユーザーへの啓発活動に力を注ぎながら、学生や技術者たちを対象とした五感に基づいた安全操業への指導、そして何よりも“地球の未来”に寄与できる研究を続けたいと思っています。
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