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未来に向かって


Q:オリンピックも含めてですが、これからのウィスラーにとって、デヨングさんの理想とする方向とは、どんなものでしょうか?

デヨング:今までお話したように、野性動物の保護、水問題への取り組みなどが、その方向ですけれど、話が途中になっていたことに戻りましょうか。地球の温暖化のことですね。氷河の急速な後退を目の前に見ている私たちは、一部の科学者が温暖化を認めなくても、現実を知っています。
また、エネルギーについても新しい取り組みが必要です。例えば水力発電ですが、今、ウィスラーの川の一つを利用して新しい発電所を造ろうとしています。従来の方法ですと川の一部を堰き止めて、谷間に大きな貯水池を造ることになります。しかし、川から取り込んだ水をパイプに通し、山の急斜面を利用して落下させて、その力でタービンを回すという方法をとれば、自然の水面を上昇させることなく発電することができます。使った水はそのまま下流に戻す。魚の産卵が活発な川を避けて建設することもできます。計画では、この方法で32ギガ・ワットの電力を生み出すことができるようになります。これは現在のスキー場のオペレーションに必要な電力をまかなえる量です。
ガラスと缶を
分別収集するためのゴミ箱
熊がゴミをあさらないように
工夫がほどこされたゴミ箱


私たちは一年前からこのプロジェクトを始めたのですが・・・実はね・・・オリンピックのルージュのコースが、このプロジェクトの建設場所と重なる部分があることがわかって、今、私はその問題の渦中にあるんですよ。発電所のプロジェクトがスタートした時には、誰もルージュのコースのことなど知りませんでしたからね(笑)

社会的問題についても簡単に触れさせてください。先日、国連から視察団の人々がやって来られた時に、かなり熱心な討論が行われたのですが、私は視察団の方々のおっしゃった「我々は環境問題の解決を、決して社会問題より先に置くべきではない。」という意見に賛成です。その日、その日を生きていくのにせいいっぱいな人々に対して、「ライフスタイルを変えろ」と言える立場ではないでしょう。私たちは地元のコミュニティに対してもグローバル・コミュニティに対しても、出来るかぎり援助の手を差し伸べて行くべきだと思っています。チャリティやボランティア活動に力を入れることも大事でしょう。
理想を言えば、世界が平和で安定すれば、経済活動も活発化するでしょうし、sustainabilityは世界規模で相互関係があります。私たちは、自分たちが優れていると自慢するつもりもないし、理想的な現状だと言っているわけでもありません。でも、「我々はできる限りの努力をしている」と衒いなく言えるところもまではたどりつきました。生きている限り、私は社会的に、経済的に、そして環境的にも、sustainable な社会づくりに寄与したいと思っています。でも、それは長い行程になるでしょうね。



*インタビューを終わって私たちは握手をかわした。握手にはそれぞれの人柄が出るものだ。誠実さを感じさせない力のない握手、わざとらしく力をこめた握手、みょうに長いあいだ握りしめているような握手などなど様々だ。デヨングさんの握手は短かったが力強いものだった。彼の発言を「しょせんは企業側の人間の声」と批判することはたやすいが、彼の握手から感じられたのは、世界の中で自分の居場所をきちんと認識し、自分のできることに精一杯努力している人間の温かみだった。
 ウィラー・ビレッジのあちこちには、リサイクル用の分別収集用のごみ箱が置かれていた。生ゴミが混じる可能性のあるごみ箱には、熊が容易に蓋を開けられないような工夫もほどこされてあった。レストランやホテルの裏では、ゴミ袋や紙類が整然と分別して置かれていたのも印象的だった。
 昨年、ウィスラー・スキーリゾートは、北米のスキー場の中で環境問題に積極的に取り組んでいる組織に対して与えられる「ゴールデン・イーグル賞」で、総合最優秀賞を授与されている。
END
ウィスラーの山並み