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■新しいライフスタイルの登場
編集部:
最近では一般的にも市民権を得つつあるライフスタイルである『ローハス』(Life of Health and Sustainability)という価値観についてはどのようにお考えですか?

松橋:
一般市民の視線や行動力に注目が集まってくるというのは自然なことだと思いますね。
普通の人(=消費者)が、にわかに素晴らしい最新技術を開発したり、発明をするというようなことは早々起こることではありません。でも、季候変動の問題やエネルギー、環境の問題などは、いい意味から考えると、人間生活の全てが関係するテーマです。ですから、ひとりひとりの役割においてできることが必ずあるのです。
例を挙げれば、ちょっと暑いけれどエアコンを入れずに窓を開けるとか、冷蔵庫の開け閉めを減らすとか、スーパーでのレジ袋を断るとか、そうした日常の小さなこと全てが関わってくるんです。個人のちょっとした心がけのひとつひとつが逆に全体の改善への行動へと繋がっていくのです。

でもこれが、ここでエアコンをつけると気候変動の原因になるし、環境に悪いからというネガティブな方向性、つまり我慢に我慢を重ねて行動をしなければならないという精神構造から起因すると、とても窮屈で苦しいものになってしまうのも事実です。ところが、あの“美しい砂浜を守る”ために自分の日常の生活のシーンに配慮しようという思考回路から発したものだと、同じ行動でも、その見え方や捉え方は大きく変わるのではないでしょうか?

“環境”という現代が課せられたテーマを自分の問題として体験してきた賢い一般消費者たちがいます。彼らが自分たちの目線で“ライフスタイルを見直そう”という動きを世界中で同時多発的に起こしつつあることは自然な流れだったように感じますね。

編集部:
消費者たちが自分たちのライフスタイルとして社会全体に向けて行動を起こす、つまり先生がおっしゃる問題点への「コミットメント」する欲求を持った時代に突入しつつあるということですね。


松橋:
小さくても、ささやかでも、すぐに具体的な行動が起こせることが、とても重要だと私は考えています。本の中でも紹介した省エネルギー活動の促進に向けての「コツコツカード」というポイントカードシステムにしても、自分の省エネ行動をポイントに換算することで達成感も得られるし、それが将来的には市場経済の場でも評価される行動として還元されるような仕組みを構築していくことが大切ではないかと思っています。

実は、この動きは現実問題として、社会システムの中で徐々に組み込まれつつあるんですよ。現在、政府レベルでも実現化に向けての動きがありますし、私もそのいくつかのプロジェクトに関与しております。
例えば、家電製品の省エネルギー化ですが、家電メーカーは現在、ものすごい勢いで効率のいい省エネ商品を開発しているんです。また、政府の働きかけによって、家電量販店などが積極的に省エネ製品を売り出すようになってきました。売り場では緑のeマーク(政府の省エネ基準を達成した商品に付けられるマーク)をつけて、省エネ達成率150%、200%という高品質の製品をアピールし、新婚家庭などの新規購入や買い替え需要に対応できるようにしています。さらに政府広報も雑誌等にこうした省エネの広報宣伝を出し、普及啓発活動に積極的に乗り出すようになってきました。

先ほどお話した「コツコツカード」のようなものを発行し、省エネ家電を購入してくださった消費者に“貴方の正しい選択によって、CO2削減にこんなに貢献していただけました”というポイントが示めせるようにするシステムを提案しているんです。
これは消費者の省エネ行動へのモチベーションを高めると共に、CO2削減への貢献を“目に見えるもの”にして、お互いに努力の証を確認できるようにしようというものです。

よく指摘されることですが、消費者という立場で環境やエネルギー、地球温暖化問題などに取り組むと、問題がとてつもなく大きく複雑であるが故に、無力感に陥ることが多々あるように思います。こうした意味でも、問題点を自覚した一般生活者の意識にダイレクトに訴えかけ、その成果を見せることは大変重要だと考えるのです。

現在、量販店の中にはこの政府の動きに対応し、省エネ製品の購入に当たってはポイントの加算率を挙げ、お金に還元できるシステムを導入しているところもあります。実はこれも、政府や省エネセンターが量販店に働きかけて、省エネ製品の普及への協力をお願いした結果だと思います。

編集部:
以前の量販店では考えられない動きですね。でも、売り場は消費者のニーズに敏感にならざるを得ないでしょうし、消費者が“今何を望んでいるか”に迅速に対応することが店にとってはビジネスチャンスになる訳ですものね。刻々と変わるマーケット・シーンにおいても、消費者の視点はシビアーですからね。

松橋:
私が参加している政府の委員会のひとつで、ある雑誌に「省エネNo.1」を載せるということになったのですが、この委員会にもNPOのメンバーが参加されています。その方は主婦なのですが、NPOのメンバーとして活動されている一般消費者の方々は実によく勉強しておられるし、前向きなんです。
今まではこうした省エネ製品の説明は分かりづらいと言われてきたのですが、彼女たちの反応は全く逆で、「こんな分かりやすいものはない」と言い切るんです。「製品Aと製品Bを比べると、これだけエネルギーが節約できて、CO2の排出量がこれだけ減る。それなら一世帯当たりでこれだけの数値で貢献できる。それなら、その数字をはっきり明記してください!」とおっしゃるんです。委員会での彼女たちの姿勢は非常に建設的で、彼女たちのパワーが政府を動かし、省エネ数値の開示への推進力になる可能性は十分あります。

私はこうした前線での動きに実際に接しているので、“個”としてライフスタイルを確立し、社会にもコミットメントしていこうとする消費者に大いに期待をしています。
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