エコピープル|レポート11:総合環境企業ミヤマ株式会社社長南 栄嗣さん


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廃棄物処理の変化、そして、あるべき姿は?


――海洋投棄を前提に中間処理を始められたわけですが、ロンドン条約によって1996年から海洋投棄は原則禁止になりましたよね。

そう。僕は、ロンドン条約締結の前から全部陸上処理に切り替えるように研究しましたよ。化学処理と生物処理の組み合わせでね。1984年海洋投棄ゼロの工場ができたとき、海洋投棄の許可を管轄の東京都と横浜市に返却しました。持ってると使いたくなるから。

――最初は海洋投棄向けの処理をやっていらしたけれども、ロンドン条約での禁止の前にそれを全部お止めになったのはなぜですか。

例えば、亜鉛の分析っていうとボーダーの数値が2000倍も違うんですよ。というのは、うちで検査するときはタンクの溶液を攪拌してサンプルをとる。でも、ここから横浜まで運ぶとタンクの中の溶液は沈殿するでしょう。港でハッチだけ開けて、タンクの上からサンプルを取られたら溶液は廃酸、廃アルカリということになって海洋投棄できなくなってしまう。基準が違ってきてしまうんですよ。で、いっぺん引っ掛かって、大論争になった。僕は何度も海上保安庁まで出向きましたよ。
よくよく海洋投棄の実態を知るとね、これほどいい加減なものはない、ということに気づいたんですよ。そんな経験から、海洋投棄はダメだと思った。うちがオール陸上処理にしたのは、ロンドン条約よりもはるかに早いんですよ。
 だから、いざロンドン条約で禁止されたときには、うちは特に何もしなかったんです。他の業者からなんとか処理してください、と頼まれましたけれどね。

――社長が創業されてから今日まで、産業廃棄物の状況はどのように変化していますか。

平成8年度、全国の産業廃棄物の排出総量は4億5000万トン。バブルがはじけるまで日本は、大量生産・大量消費で廃棄物をどんどん増やしたわけです。物をつくれば必ずごみになるんだから。バブルがはじけてからの総量は横ばい。それは、環境に対する意識が変化したこともあるし、規制が増えたこともありますしね。

――バブル崩壊まで増加の一途をたどり、崩壊後も減ることはなく横ばい状況にある産業廃棄物。規制する立場にある国の、産業廃棄物への取り組みを社長はどう見ておられますか。

2000年に成立した循環型社会形成基本法は、埋め立てするところがなくなったから、なんとかごみを減らせっていう苦肉の策でしょう。2001年から施行されている「改正廃棄物処理法」だって、規制ばかり増えて廃棄物を減らすようにはできていない。
今後はますます環境規制対応のエキスパートが必要になってくるでしょう。なんせ法体系が煩雑ですからね。
2002年5月からは、建設リサイクル法が施行されるでしょう。容器包装、自動車って別々に法律があるわけですが、ごみ問題は種類別に分けられるものじゃない、政策は全部つなげなければいけないはずなんですよ。大体「産業廃棄物と「一般廃棄物」を分ける必要はない。ごみはごみ。今の区別なんて、すごく曖昧なんだよ。「特別管理産業廃棄物」と「産業廃棄物」の線引きもそう。「特管」と「産廃」を分けるPH(ペーハー)の区別を知ってますか? PH2を中心に上いったり、下いったりすれば、「特管」になったり「産廃」になったりするんですよ。つまり、ちょっと水で薄めたら、「特管」が「産廃」になるんです。そんな馬鹿げた区分がどうして必要なんだろうか。こんな矛盾がいっぱいあるんですよ。種類で分けて、基準値で分けて、今お話したPHのように測る人の感覚で変わるようなもので分ける、そんなこと無意味でしょう。
僕は細かな分類は必要ない、と前から言っているんです。人類に有害だと思われるものを分ける、この一つの区別でいい。
毎日のように新聞で環境問題が報道されるけれど、一般の人には何が起こっているか、わからないでしょう。情報公開だなんだっていったって、理解できませんよ。制度を変に変更されたら尚更わからない。……日本の廃棄物の問題は、ちょっと末期的症状だと思ってますよ。

――正しくは、どういう規制をするべきだと思われますか。

基本を考えればね、昭和46年の「廃棄物の処理及び清掃に関する法律(廃棄物処理法)」が制定されたときの原理に問題があるんですよね。当時は日本の産業廃棄物の総量が少なかったから、埋めて逃げられると思ったんでしょう。海岸線を埋めていけばって。しかし、漁業権の問題も厳しくなってきました。それから、日本の地形の構造を考えると山に埋めるのも難しい。というのは、日本の川は、外国人に言わせたら川じゃないんですよね。滝ですよ、滝。非常に傾斜がきつい。だから、山に埋めるといつどんな災害を起こすかわからないわけです。大雨が降れば洪水。つまり、日本の地形には埋め立てという手段は本来そぐわないんですよね。江戸時代や、終戦当時のように絶対量が少なければなんとかなるでしょうが。
僕はね、昭和46年の段階で日本の廃棄物処理の方法として埋め立ては無し、とすべきだったと思っているんですよ。
じゃあ、どんな方法がいいかと言えば、サーマルリサイクルですよね。今でこそ、エネルギー問題が取りざたされてサーマルリサイクルが言われるけれど、昭和46年の時点で考えるべきだったと思いますよ。もちろんマテリアルリサイクルはいいですよ、昔からやってる手法ですから。だけど、これには限度がありますよね。物財の寿命が1年、2年と延びたところでごみの量そのものは減らないんだから。だから、やっぱりサーマルリサイクル。
東京は、地下に穴掘るの好きでしょう? 清掃工場を地下に造ればよかったんですよね。そこで、ごみを燃やしてしまって、そのエネルギーを東京都の全暖房、全冷房に使う。都市ごとセントラルヒーティング。そういう発想をすれば、ビルの窓ににょきにょき冷暖房施設がはみだすことはなかったでしょうね。冷暖房に限らず、一般工場でもエネルギーを使えるでしょうし。

――清掃工場は廃棄物があるかぎり、絶対に必要なものですよね。

そうです。でも、鼻っ面に突きつけられたら誰だっていやですよ。今から地下に造ることはできないだろうから、代わりに団地をつくればいい、と思いますよ。
何しろごみ問題の解決は、大胆な発想と勇気と闘魂がなければできませんよ。>>次のページ