『海との出会い』 by 中村征夫
ecogallery Vol.1 2022 summer

  • 機内から見下ろす美しい海に私は身震いするほどの感動を覚えた。機は高度を下げ、沖縄本島南部のサンゴ礁上空を飛行し、那覇空港に着陸しようとしていた。群青色に染まる外洋の海と、陸から沖合に伸びるサンゴ礁とがくっきりと二分され、このとき初めて七色に輝くサンゴ礁を見たのだった。
    19歳のとき海水浴に出かけた神奈川の海で、エアボンベを背負い海から浮上してきたダイバーに出会ったのは衝撃だった。手にしている小さな水中カメラを見て、海の中でも写真が撮れることに驚き、数日後にはスキンダイビングで水中写真にトライしていた。
    独学で始めたダイビングと水中写真だった。被写体はもっぱら海藻やそこに群れる小魚たち。深緑色の海中はお世辞にもきれいとは言い難かったが、モノクロームのプリントに仕上げると、そこには神秘的な世界が展開しているように思え、気がつけば、どんどん海の魅力に取り憑かれていく自分がいた。
    初めて沖縄の海に潜ったのは25歳のとき。はやる気持ちで海中に飛び込むと、白砂が続く海底にサンゴの群落が広がっていた。そこにキラキラと陽光が注ぎ眩いばかりだった。
    圧倒的なパワーで迫るサンゴ礁の迫力。それに接し、どう構図を決定すべきか判断もつかなかった。この頃はサンゴがもたらす恩恵など考えもしなかったが、1972年、沖縄返還とともに美しい海は嘆きの海へと変貌を遂げていくのを、誰が想像できただろうか。

    水中写真家 中村征夫