〜命をいただく〜エコキッチン
料理人|醸造家
1981年遠野市生まれ。
江戸時代から続く武士の家系に生まれ、100年余り続いてきた民宿「とおの」を4代目として継ぐ。料理の基礎を父から学んだ後、独学で料理を極める。その傍らでどぶろく造りを始め、10年以上の試行錯誤を経て、一般的な「どぶろく」とは異なるエレガントな味わいを生み出すことに成功。
2017年には、スペインの世界的レストラン「ムガリッツ」にてどぶろくを使ったコースが新設されるなど、世界へ向けた道を歩み始めている。また、どぶろくを中心とした発酵食を深める過程で熟成の技術も身につけ、干肉やサラミ、チーズ、酢など、ありとあらゆる発酵食を自ら作り出せるようになった。2011年9月から民宿の隣に「とおの屋 要」をオープンし、ゆったりとした時が流れるレストラン、1日1組限定のオーベルジュを構えている。
写真|奥山 淳志 OKUYAMA Atsushi
北国の冬も大きく変わり、雪が昔のように積もる事はここ数年無く、どこか寂しさを感じる。それでも、うっすらと積もった雪景色、キラキラと振り輝く雪を見ると、この土地に生まれて良かったと思う。
北国の冬は長い。そんな寒く長い冬に、団欒という幸せな時間を紡ぐのに欠かせない食材達。それは、乾燥させた豆類や米粉や蕎麦粉といった粉物。
「鶏卵」は、私の故郷に伝わる料理。
小昼と呼ばれる文化は、農家ならではの文化のように思う。朝早くから田畑仕事や、窯に火を入れ、湯を沸かして朝ご飯の準備に取り掛かる。昔の人々は朝が早い。
お嫁さんの朝一番の仕事は、井戸から水を汲み、窯に火を入れる事から始まる。
17歳で嫁いできた祖母は、この「朝一番の作業、特に冬の時期が1番辛かった」とよく私に話してくれた。
朝早くから身体を動かし、男も女も皆が働いた。朝食の時間は早く、朝5時半から6時には食べていたそうだ。そうなると、お腹はお昼ご飯を待たずして空いてくる。
そこで間に、小昼という食事をとる。その小昼で食されていた冬の一皿が、「鶏卵」。鶏の卵の形に似ている事から、この名前がついたらしい。
餅米粉を用いて皆で形を作り、中に炊いた小豆を入れ、沸かした湯に入れていく。
こねこね、コロコロと、婆ちゃん達を中心に、子供達と一緒に湯に入れていく。
不思議と、火の温もりや湯気に、人が寄ってくる。
こんな風景が北国の冬の醍醐味だ、と私は思う。
小豆は一晩水で戻し、コトコト、コトコトと弱火で炊いていく。
蜂蜜と塩を加減して入れ、味と硬さを整えていく。
私は小豆を歯ごたえが残る程度に炊いている。その方が小豆本来の豆の味が生きてくる。
ここで要注意なのが、蜂蜜を入れすぎてはならないという事。
甘味は控えて、塩で味を整えて欲しい。
忘れてはならないのが、食材にも命があるという事。蜂蜜にも小豆にも米粉にも命がある。各々の個性を互いに殺してはダメだからだ。
そして、お椀にはるお水も天然水を使い、このお水にも天然塩を入れ、水の香りを引き出す。口に入れた時の含み香は、日々の疲れた身体を癒してくれる。黒のお椀の中に映える真っ白な「鶏卵」。フワッと立ち昇る白い湯気。本当に美しいと思う。