食材ラボ富山県の海の幸、山の幸

©︎ MUKAI Takashi

第五回『発酵食』



富山の食文化を語るうえで、欠かせないのが「発酵食」です。

雪深く、湿度が高いこの気候風土のなかで、人々は単なる保存のためではない、「味を育てる」知恵を磨いてきました。味噌や醤油、酒、漬物ーー富山の食卓に並ぶ発酵食の数々は、自然と折り合いながら生きてきた人々の暮らしが形になったものだといえるでしょう。

そんな富山の食文化を支えているのが、県内各地に点在する麹の専門店です。発酵の要となる麹をつくり続ける存在があるからこそ、郷土料理の味は守られてきました。

©︎ MUKAI Takashi









なかでも南砺市の石黒種麹店は、全国でも数えるほどしか残っていない種麹店のひとつで、現在もなお、「こうじ蓋製法」という極めて手間のかかる製法を、一子相伝で守り続けています。木の麹蓋に米を広げ、菌をまわし、温度や湿度を見極めながら、麹の声を聞くように仕上げていく。その現場には、効率化を追い求める現代とは対極にある、「本物」を育てるための時間が流れています。

「こうじ蓋製法」(石黒種麹店ご協力)
蒸した米を広げる    















南砺には、「土徳(どとく)」という言葉があります。
土地が人を育て、人が土地に生かされる。自然を支配するのではなく、敬い、委ね、その力を引き出すという考え方です。石黒種麹店の実直な仕事ぶりには、この土徳の心がそのまま息づいているように感じられます。

冷ました米に種麹を蒔く

















「麹を一言で表すと、何ですか?」
そう尋ねたとき、店主の石黒さんは、それまでの穏やかな表情をきりりと引き締め、迷いなくこう答えました。
「麹は、日本の宝です」

その言葉は、長い年月をかけて技を受け継いできた人の、静かな誇りと覚悟が映し出されているようでした。

麹蓋に盛る    













富山の冬のご馳走として欠かせない「かぶら寿司」もまた、発酵と土徳が生んだ郷土料理です。塩をあてたブリを甘みのあるかぶらで挟み、たっぷりの麹で漬け込む。雪に閉ざされた季節だからこそ、時間をかけて味が深まり、年の瀬や正月の食卓に欠かせないご馳走として受け継がれてきました。

冬の厳しさを、豊かさへと変えてきた富山。
自然と向き合いながら、人の手と時間によって発酵食は育てられてきました。
その積み重ねが、今日の暮らしをそっと支えています。

複数の手作業を経て完成