~地球の声に耳を傾ける~
エコピープル

2025年晩秋号 Ecopeople 106
ビオトープ知多の挑戦

小原史彦 OBARA Fumihiko
JFEスチール株式会社
知多製造所 総務部長

中川昌美 NAKAGAWA Masami
JFEスチール株式会社
知多製造所 総務部 総務室 主任部員

小林薫乃 KOBAYASHI Yukino
JFEスチール株式会社
知多製造所 総務部 総務室



Part 1

編集部
知多製造所開設80年を記念し、2ヘクタールのビオトープ造成を決定されたとのことですが、隣接するエリアにはすでに立派な竹林も池も整備されていますね。実際に現地を拝見し、環境保全という理念が企業文化としてじっくり根付いていることを感じました。


1949年鋳造工場完成時


2025年 現在のJFEスチール知多製造所全景



小原
前回の節目である製造所開設70周年を迎えた2013年に「ホタルが住めるような水辺環境を整える」をスローガンに掲げ、地球環境に配慮し、また地域の方々にも愛される製造所として変身・進化するべく徐々に工場内の整備を進めてきました。
今回は、このエリアに隣接する鋼材置き場だったヤードを『ビオトープ知多』と命名し、水田や湿地エリア、さらに里山林エリアの整備に着手しました。
編集部
今回の造成決定の流れに至るきっかけとして、近隣の自治体の大府市が主体となって推進する「アサギマダラ飛来の拠点作りプロジェクト」に賛同され、汽水池の水辺にフジバカマを植えられたとのことですが、知多半島では環境保全を推進する業界を超えた広域ネットワークが定着しているのですか?
https://www.city.obu.aichi.jp/kurashi/gomi/shizenkankyo/1036844.html

小原
このプロジェクトを教えてくださったのは日頃からお世話になっている造園屋さんでした。
私たちは地域の皆様の理解やご協力をいただいて、この地で事業を展開してこれたわけで、地域の環境保全活動と連動し、推進して行くことは、市民の方々との接点ともなり、製造所への理解を深める上でも大切にしたいプロジェクトだと考えています。
ご承知のようにアサギマダラは模様が鮮やかで、日本国内の比較的温かなエリアと南西諸島で生息する蝶で、直線距離で1500キロメートル以上移動した個体が観測されるなど、長距離を移動することで知られている「渡りをする蝶」です。
ビオトープの池の水辺に蝶が好む植物であるフジバカマを植えたところ、同年に早速、アサギマダラの飛来を確認しました。
編集部
すごいですね。蝶たちのネットワークでは、工場内の池は安全な緑豊かなエリアとして周知されていたのでしょうか!
ところで、2022年には開設80年に向けた検討会を開始され、翌年にはビオトープ造成を記念事業に決定されていますが、「生物群集の生息空間」であるビオトープを工場内に造成するという決断を下すまでには、さまざまな意見や提案があったのではないでしょうか?

小原
ご推察の通りです。節目となる2023年、変化する社会、自然環境を見据え、鉄鋼会社である弊社が、「ステークホルダーのみなさまへ、日頃の感謝を伝えるには我々はどのようなイベントやアクションを企画し、事業を興すべきか?」について、さまざまな意見を吸い上げるべく、社内に3つの分科会を立ち上げました。
各分科会は、3つのカテゴリー、「取引先や協力企業のみなさま」、「地元である半田市や愛知県」、そして「社員やその家族」に対し、異なる対象に向けどのようなアクションや未来へのビジョンを示せば、喜んでいただけるのかについて喧々諤々の議論を重ねました。
編集部
多くのアイデアを集約することは大変だったのではないでしょうか?

小原
はい。予想以上の多くのアイデアが寄せられたことにも驚きましたが、そのどれもが耳を傾けたくなる提案で、絞り込むのもひと苦労でした。
ただ、集約作業を進める過程で、その裏に込められたメッセージは、次の3つに要約できました。
「JFEで働く社員として、地元における会社の知名度を上げたい」
「基幹産業である鉄鋼会社として知多製造所の誇りを広くアピールしたい」
「次世代や地域の未来に貢献する記念事業に寄与したい」
この声を受け、2023年は複数のキャンペーンやイベントを企画し、実施しました。
編集部
ビオトープ造成以外に、80周年を祝うイベント企画も実施されたのですね。
どんなイベントを実施されたのですか?

小原
まず、名古屋では、名古屋駅のシンボルでもある「ナナちゃん人形」(高さ: 6.1メートル / 1973年に設置された巨大マネキン人形)に弊社作業服を着用していただくキャンペーンを展開しました。
https://aichinow.pref.aichi.jp/spots/detail/1636/



名古屋駅のナナちゃん人形


ナナちゃん人形が被った実物ヘルメットを持つ、稲刈りイベントに参加されたお子さん



小原
他には、世界10の国と地域でも販売されているロングセラーのチョコレート入りビスケット「コアラのマーチ」のコアラに弊社のヘルメットを被せた特別パッケージをオーダーして配布。さらに、バスのラッピングも実施しました。



オリジナルパッケージ『知多のマーチ』 / マイクロバスのラッピング




編集部
まさに地域の方々と共に80周年を祝う盛りだくさんなイベントを展開されたのですね。

小原
80年にわたってこの地で事業を展開してこれたのは、地域の皆さまのご理解とご協力があってのこと。その上に社員の貢献があったおかげだと思います。おかげさまで、さまざまなチャンネルを通じて、我々の感謝の気持ちを伝えることができたのではないかと思います。