編集部|
2024年に発表された報告書を拝見すると、ビオトープ内には異なる機能を持つエリアが緻密にゾーニングされており、植栽も実に多様です。それぞれのエリアは微妙に入り組み、非常に有機的なデザインになっている印象を受けました。
先生の中で、基本設計の立案には明確なコンセプトがあったのではないかと拝察しますが、いかがでしょうか?
福田|
基本コンセプトを一言で表現するなら、それは『鋼管の森』。
知多製造所で製造している鋼管に着想を得て、さまざまな自然を伸びやかに融合させることで成立するゼロカーボン達成への意思、多様な生物と共に生きる姿勢、さらに、こうした生命の営みや歴史を具体的に紡ぐ役割を担う “いきもの” たちが一堂に集う「森」のイメージです。
これを具現化するべく提案したのが3つの異なる機能とストーリーを持つエリア、「鎮守の森エリア」「種子散布の森エリア」、そして「ゼロカーボンの森エリア」です。
「鎮守の森」では、地元半田市周辺の歴史的社寺林を範とし、それを再現するべく矢高・箭比神社の社叢や草木などをリサーチし、知多半島ならではの原植生を反映させた樹木を選定しました。静かな環境が保持されている鎮守の森は、鳥類や昆虫にとって豊富な餌場を提供するのみならず、隠れ場所にもなります。ここではスダジイ、タブノキを植えることで、メジロやツグミ、ヤマガラ、シジュウカラなどの飛来を期待できる樹木を選定しました。
「種子散布の森エリア」では、鳥たちと植物の共生関係を意識し、高木にはエノキ、ムクノキを配し、さらにイヌビワ、ナンテンなど実のなる樹木を、さらに低木についても鳥たちの種子散布で植生する森を重層的にデザインしました。
「ゼロカーボンの森エリア」では工場内のゼロカーボンに貢献するべく、日本在来種であるセンダンを植林することを提案しました。センダンはスギやヒノキに比べて最大約8倍のCO2吸収力を持ち、生育も早い特性を持っていることを踏まえ、JFEスチールの環境目標達成への強いメッセージを示す樹木として選定しました。
ビオトープ知多に植林されたセンダン
編集部|
この地球で暮らす多種多様な “いきものたちの力” がそれぞれに重なり合い、相乗効果が期待できるきめ細やかなマッチングになっているのですね。
小さなことが、最終的には大きな目標達成への確かな原動力になるように設計されている3つの森の物語。改めて、地球という惑星がこれまでに築き上げてきた「命のつながり」が共鳴する場所が、今回のビオトープの目指すゴールなのだと納得しました。
福田|
ご承知のように、近年の猛暑は危険なレベルに達しています。
2023年、気象庁は統計を開始した1989年以来、「126年ぶりの最も暑い夏」と表現しました。が、昨年も今年も夏日、真夏日、猛暑日、酷暑日が増え続けています。つまり、この状況は126年に一度の異例事態ではなく、これこそがノーマルになっているのです。
気温上昇がこのまま止まらないような事態に陥ると、すべての生態系が破綻をきたす大きな危機が目前に迫って来ていることは、誰もが薄々感じているはずです。
具体的な行動を取らなければならない今、ことの大小を論じている段階ではないと思います。
2023年の気象ニュース
https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/52121c95218a6c135022213726f32ae6ca831a4d
編集部|
先生は「ビオトープ知多」について、“創造する” という表現をされていらっしゃいますが、“再生する” という言葉についてはどのように考えていらっしゃいますか?
福田|
昨今、「自然の再生」という言葉をよく聞きますが、一度破壊してしまった自然を元通りに戻すことは極めて困難です。であれば、更地から創造するというのも現実的な方法です。
確かに『ビオトープ知多』の造成予定地となったのは砂地です。土壌としては良質とはいえません。ただ、知多の風土や気候にあった土壌改良を施し、選び抜かれた樹木を植樹し、然るべき時間をかけてモニタリングしていく方法もあると思います。
その間、市民研究員の方々のご尽力もあり、生育状況等を観察し、軌道修正を繰り返しながら、現在も試行錯誤しながら進めています。
環境問題を解決するためには、「小さなこと」を着実に積み上げてゆくことが基本中の基本です。もちろんビオトープの創造だけで「ゼロカーボン」の実現はできませんが、私たち人間は、生態系を理解し、“生きもの” たちの命を未来に繋いでいく使命を担っています。
『ビオトープ知多』の挑戦をこれからも見守ってまいります。
取材日|2025年10月10日