エコピープル 50「東京スカイツリー物語」part6

降伏忍耐という強さ

編集部

634メートルの鉄の構造物、東京スカイツリー、ここではどのような鉄が使われているのでしょうか?

末石

鉄の強度を示す基準にはいくつかの要素があるのですが、今回は非常に細長い構造物ということもあり、地震や風による強い揺れに対して、変形しても元に戻る力、つまり高い「降伏強度」が求められました。それに合わせ、使用されるそれぞれの部位によって、高層建築物などに使用される一般的な強度の鋼管の他に、新たに開発した3タイプの高強度円形鋼管を納めさせていただいています。

編集部

鉄の強度を表す言葉、「降伏強度」についてご説明いただけますか?

末石

例えば針金で遊んでいたとしましょう。ピンとした針金に力をかけていくと、曲げても元に戻る範囲と、若干は戻るものの、元の状態までは戻れずそのまま変形が残ることがありますよね。そのように降伏強度とは、力を加えて変形しても、元の形状に戻ることができる限界(上限)の強度を指します。
通常、建築の構造設計には、激しい揺れがあった際にも、各部の構造材がこの降伏強度を超えないようにする設計と、降伏強度を超えたところで、各部の構造材の変形により揺れのエネルギーを吸収することに期待した設計の大きく2種類の考え方があります。東京スカイツリーでは、この前者の考え方が採用され、かつこれまでに無い高い建造物であることから、従来よりも降伏強度の高い鋼管を使用することが要求されたのです。

編集部

つまり、東京スカイツリーのための新しい"強い鉄"を生み出したということですか?

末石

その通りです。634メートルの東京スカイツリーに使用されている円形鋼管には一般の高層建築で使用されている規格品に加え、さらに3段階のより高い降伏強度を有する新しい鉄を求められ、弊社では、「P-400T」、「P-500T」そして「P-630T」という高強度の円形鋼管を開発し、国土交通省の大臣認定を取得しました。

編集部

既存の建築用鋼管の約2倍という降伏強度を持つ今回の高強度円形鋼管はどのように製造されたのでしょうか?

末石

ひと言で説明できるものではありませんが、日本の製鉄業が永年にわたって培ってきたノウハウや実績があってこそ実現できた鋼管であることだけは確かです。東京スカイツリープロジェクトに参加した製鉄会社はどこも日本を代表するメーカーですが、それぞれに想いは同じだと思います。鉄の強度をコントロールするのは、主として化学成分の調整,圧延工程,熱処理工程に託されるのですが、求められる鉄の性能は、強度だけではなく、ねばり強さや溶接のし易さなども考慮しなければなりません。これらをバランスよく達成することが重要となります。

限られた期間内で要求される性能を満たす鋼管の開発が実現できたのは、日本独自のものづくりの精神に支えられての快挙だと思います。

弊社では、東京スカイツリー向けに多くのファブリケーター様からさまざまなサイズの鋼管をご注文いただきました。部材の指定サイズは、外径で165.2〜2,300mm、管厚5〜100mmと幅広く、サイズは約80サイズにわたりました。弊社では鋼材メーカーの中では最大量を供給させていただいており、倉敷、福山、京浜の三地区の製鉄所と知多製造所で総力を挙げて製造いたしました。

末石伸行さん

建築構造用高強度円形鋼管

鉄の生産工程を見る

鉄の生産工程

それぞれの分野を受け持つ担当者がしっかり自分の仕事を成し遂げる

編集部

今回はすべてが鋼管、つまり円形の鋼管ですが、製鉄所で出来上がった鉄はどのような状態なのでしょうか?

末石

JFEは建築構造用にさまざまなタイプの円形鋼管を製造しています。ただ、製鉄所で製造される鋼管は最初から円形になっているわけではなく、基本は平らな板状の材料が基になります。これを板巻き製法やUOE製法などの手法で鋼管へと仕上げていきます。特に今回のような大径厚肉の鋼管を造管するのは、協力会社で加工を担当いただいている職人さんたちの手技によるところが大きく、彼らの永年の経験値や絶妙な勘があってこそ、寸分の狂いもない見事な円形の鋼管へと仕上げられてゆくのです。今回の東京スカイツリーの現場で組み上げられたピース数は想像を絶するものがありますが、上層に向かって次第に外径も厚みも変化していく鋼管のひとつひとつが人間の手技で加工されたパーツなのです。その技術力と膨大な労力は並大抵のものではなかったと思います。21世紀という時代に、日本に世界一のタワーを作り上げるというプロジェクトの精神とその心意気が、あらゆる意味での不可能を可能にしたのではないかと想像します。

編集部

モノもコトも大きくなると、その存在感としての強大さに人間の想いや工夫などを必要としないような印象を持ってしまいがちですが、実際はだからこそ、人間の血の通ったコミットメントを必要としているのかもしれませんね。

末石

多くの人が関わるからこそ、それぞれの分野を受け持つ担当者がしっかり自分の仕事を成し遂げることが重要なんだと思います。お互いに厳しい条件を理解した上で、さらなるベストを目指す、東京スカイツリープロジェクトが今後の日本のモノづくりのある指針になることを願ってやみません。

2011年9月6日・JFEスチールにて

末石伸行さん