エコピープル 50「東京スカイツリー物語」part9

編集部

今回の東京スカイツリー®のライティングデザインに対して、どのようなお気持ちで取り組まれていらっしゃいますか?

篠原

非常に大きなプロジェクトですので完成までドキドキですが、この「粋」と「雅」のライティングデザインが実際にタワーに灯る日を私自身も非常に楽しみに、今まさに詰めの作業に向き合っています。
照明コンサルタントの選定時に戸恒さんのライティングデザインを初めて拝見した時も、その斬新な発想に驚きましたし、その新しさを実現させたいと思いました。今までのライティングデザインの大半はライトアップという下から上へ照らすのが常識のように思われていましたが、スカイツリーでは上から下へ向かうライトダウンの照射があり、しかもパブリックな照明ではあまり採用されない「紫」という色を使うという点にも驚かされました。今回の戸恒さんのライティングデザインは、チャレンジングなものなんです。

編集部

確かに、今までのライティングデザインはほとんどがライトアップ、足元から上に向かって照射するスタイルでしたね。

篠原

今回のスカイツリーは634メートル、これだけの超高層タワーのライティングをするというのは、今までの発想や理屈が通用しないスケールなのかもしれません。その意味でも戸恒さんの発想は私たちにとっても新鮮でした。
近年、環境デザインという観点からもライティングをどのように捉え、扱うかについては具体的に議論されるようになってきました。ただ単に明るいのではなく、その空間でライティングがどのようなメッセージと共に機能していくかについて検討がされていく中で、東京のランドマークとなるスカイツリーのライティングデザインは、未来社会のライティングのあり方をこれまでとは違う方向へと導くことになるかもしれません。

篠原奈緒子さん

篠原奈緒子さん

未来の灯りの姿とその価値

編集部

3.11以降、社会全体が節電を励行する中でのライティングデザインの実現には、適切な配慮と説明責任が求められますね。

篠原

節電される前の東京は、ある意味必要以上に明るすぎたという事実もあります。この数ヶ月の間で照明が調整されて暗くなったパブリックスペースに対して一般の方々も慣れてこられています。節電のために調整されている照明環境は、緊急措置として対応されており適切と言えない部分もありますが、安全・安心な環境維持のためのパブリックな照明の必要性、あり方について関心を持っていただけるきっかけになったとも思います。
スカイツリーのライティングは、全体を煌々と照らすものではなく、陰翳のあるデザインで、陰翳を上手に用いることによる照明効果を再認識して頂けるデザインだと考えています。また、LED照明器具が導入されたことも、都市の未来の灯りの姿とその価値、省エネルギー効果などを包括的に考える上で理想的なきっかけになるように感じています。

編集部

今回のスカイツリーのライティングデザインを照明設計・監理という立場から支える篠原さんのお仕事の内容を具体的に伺えますか?

篠原

照明コンサルタントを戸恒さんにお願いすることが決まったときには、タワーの主鉄骨の製作が始まろうとしている段階で、とにもかくにも、照明器具の取付け用部材をタワーの鉄骨に早急に組み込む必要がありました。具体的な照明器具の仕様が決まっていなかったため、今までの照明器具のパターンを検証し、最も汎用性を持つ取付け用部材を先行して設計するという作業から始まりました。その後は、ライティングイメージを実現するためのLED照明器具の開発をお願いしたパナソニック電工さんとの技術検討や工場での照明実験、施工者との照明器具の取付方法の検討など、これまでに経験の無い高さへ照明器具を設置するための検討や、長距離の光照射に対応するための検討などを積み重ね、「粋」、「雅」のライティングデザインの実現に向かって作業をしています。実際に器具を設置し点灯した時、それがイメージ通りに出来上がってこそ都市の景観を彩る環境照明として機能します。最終段階での詰めの作業は、実際の色の見え方や照射角度の最終調整など、確認すべきポイントをひとつずつクリアしてゆくしかありません。ただ、こうして次第に具体的な姿を獲得していくライティングデザインに、より深い思い入れが生まれて来ているのも事実です。

編集部

なんだか既に発表されている「粋」と「雅」の次の展開もありそうですね。お聞かせいただけますか?

篠原

そんな風にライティングデザインにストーリーを感じていただけているとしたら、さらにやりがいを感じます。来年からいよいよ始まるスカイツリーのライティング、ここで語られる東京の物語、どうぞ楽しみにしてください。

2011年8月12日・日建設計本社にて