エコピープル 50「東京スカイツリー物語」part7

本質が美しく表れる照明デザイン

編集部

東京スカイツリーのライティングデザイン、どのような経緯でお引き受けになられたのですか?

戸恒

ライティングデザイナー候補者のひとりとして、僕にもプランを提案するチャンスを与えていただいたのがきっかけでした。思いがけないお誘いでしたが、東京のランドマークになる新タワーのライティングデザインができるなんて、僕の人生にとってもまさにランドマークになるチャレンジであることに間違いありません。ですから自分の直感を信じ、気負うことなく今回のプランを提案させていただきました。

編集部

そしてそれがめでたく採用された訳ですね。

戸恒

おかげさまで(笑) こんなにも大きなプロジェクトですから、ノミネートされたデザイナーそれぞれから魅力的なデザインが提案されたのは明らかです。でもせっかく東京スカイツリープロジェクトに向き合うチャンスを与えていただけたのですから、周りは気にせずに今の自分らしさで突き進んでみようと決めました。もしかしたらその潔さが功を奏したのかもしれません。
元々、大学で建築を学んでいたこともあり、ライティングに絞りこんだ仕事をするようになった今でも、建築同様、それが立地する場所との関係性を掘り下げ、物語を紡ぎ出すようなデザインを心がけてきました。つまり、"建造物を華やかに見せるデザイン"ではなく、"建造物の本質が美しく表れるような照明デザイン"を追究したいと常々思っています。

編集部

今回も、東京の新しいストーリーを語る"そこにそれがある必然性"が感じられるライティングデザインを目指された訳ですね。

戸恒

その通りです。東京だからこそ成立する照明デザイン、それはまず念頭にありました。建築もライティングも、その場所に存在していることを周囲の人々に受け入れられ、理解されない限り、存在意義そのものが問われる運命にあります。
今回は東京スカイツリーが下町、江戸の雰囲気を色濃く残すエリアに立地することに注目し、「粋」と「雅」というキーワードを設定し、ふたつのデザインにそれぞれのメッセージを託そうと考えました。「粋」は、東京という都市が育んできた"心意気"、つまり人々のライフスタイルの規範ですね。そして「雅」は、この都市が磨き上げてきた"美意識"の集積です。それぞれのデザインコンセプトのイメージカラーとしては隅田川の淡いブルーと江戸紫を選び、無駄のないデザインであると同時に、双方がお互いの魅力を際立たせる存在になるように考えました。デザインする上でのさじ加減としては、ちょっと気の利いた"よそ行き"のレベルにチューニングし、あまり造り込み過ぎないよう心がけました。なにしろ毎日多くの人々が見る訳ですから、装飾性が行き過ぎるとうるさいし、飽きも早くなります。片やシンプルで変化に欠けたデザインでは人々の話題にもならない、ここがデザインを詰める上でのポイントになるなと思いました。

編集部

東京スカイツリーのライティングに特定の色を与えることは、東京にイメージカラーを与えることと同義となるような大きな決断だったと思いますが、そこに迷いはなかったのですか?

戸恒

ありませんでした。自分の中では両方とも東京に溶け込める色だという確信がありました。ただ、色を前面に押し出したライティングデザインについては、日本ではまだまだ保守的な反応をされると予測していたので、淡いブルーを基調とした「粋」と江戸紫の「雅」案が検討委員に違和感なく受け入れられ、僕の提案が選ばれたと聞いた時、僕としてもちょっと驚きました。

戸恒浩人さん

ちょっと気の利いたよそ行きレベル

屋形船のライティングと戸恒浩人さん

編集部

色へのこだわりについて、伺えますか?

戸恒

「粋」の淡いブルーも「雅」の江戸紫も、光ならではの透明感のある色として表現したかったので、照明器具のLEDでの色の開発にはご苦労をいただきました。特に紫という色の光は繊細で、上品に感じる色になるまでにたくさんのテストが必要でした。
ご承知のように東京の建物やランドスケープライティングで使用されている色は、まだまだ白色系の単色が主流で、上手に色を使ったライティングデザインはこれからLEDによって実現されていくという状況です。今回のスカイツリーのライティングが登場することで、東京のランドスケープライティングのシーンに"新たなページ"が拓かれ、未来に向かって影響を与えるようになることを願っています。

編集部

とおっしゃいますと?

戸恒

スカイツリーのライティングを見た人たちが話題にとりあげて、喧々諤々、様々な議論をしてくれるといいな、と思っているんです。スカイツリーが東京という都市のライティングに興味を持つきっかけになり、同時にスカイツリーのライティングを意識したアクションが次々に起こるような影響力を持つ、そんな存在になって欲しいと願っています。いつしか東京のライティングが洗練され、全体が調和してゆくことになったらと素晴らしいですよね。

編集部

今回のプロジェクトで最も苦労された点は?

戸恒

デザインが決定したばかりの初期の段階で、器具の設置場所とその設置角度を算出するよう通達されたことです。いつもなら本体の建造物が出来上がったところで、照明器具を現場に持ち込み、テストを繰り返しながら設置作業をするのが通常の順序ですが、これが高所作業の制約から逆さまになったのです。つまり、タワー本体を組み上げる段階で、器具の設置ができる土台を造ってしまおうという訳です。3Dのコンピューターグラフィックでの設置場所と角度を算出するというのは、文字通り未知の領域でした。関係者と共に地上でのテストやCGでの検証は再三くり返しましたが、微妙な照射角度のずれや照射領域の過不足で、ライティングデザインの印象を変えてしまうことは容易に想像できます。徹夜が続いたスタッフには「人々を感動させるデザインを創り上げるにはこれくらいは想定内の苦労」と、檄を飛ばしました(笑) でも正直、大変だったと思いますし、感謝しています。

編集部

最後に、今回のライティングデザインを楽しみにしている多くの皆さんにメッセージはございますか?

戸恒

ライティングデザインと建築に違いがあるとしたら、見た印象や体験を伝えやすいその軽やかさだと僕は思っています。今回のスカイツリーのライティングに感じた印象を是非ともひとりひとりの方が"持ち帰って"いただき、ご自身の光の記憶に重ね合わせていただけたらと願っています。

2011年8月10日・シリウス ライティング オフィスにて