~地球の声に耳を傾ける~
エコピープル

2026年初秋号 Ecopeople 109高砂淳二さんインタビュー

1 地球の悲鳴が聞こえる。

編集部|
この夏は世界中から非常事態と言ってもいい、未曾有の自然災害が頻発しています。7月末に大地震に襲われた熊本の被災地ではその後も酷暑が続き、東日本では北海道から東北、関東、北陸など広域での豪雨災害で住まいや収穫直前の田畑が水没し、日常生活の基盤を一晩で失うような大きな被害が発生しています。
カナダからお戻りになられたばかりと伺いましたが、カナダで発生している山火事のニュースは日本でも大きく報道されています。今回の取材は撮影への支障や身の危険を感じるような状況だったのでしょうか?


高砂|
出発前にもカナダの山火事のニュースは届いていましたが、現地到着後に目にした光景に驚きました。かくも広域で、深刻な事態に至っているとは予想していなかっただけに、本当に驚きました。移動途中の車窓からの焼け落ちた森の姿ももちろんのこと、滞在先のホテルやコテージは、延焼を防ぐために自衛手段として決行された施設周辺の樹木伐採、さらに本来であれば室内の火種を消火するためのスプリンクラーの屋外設置など、緑豊かな森に囲まれた穏やかなリゾートという印象は全くなく、住民の方々は非常事態への臨戦状態という感じでした。

【参考】カナダの山火事マップ(IQAir公式サイトより)

カナダの山火事は、ニュースで報道されていたブリティッシュコロンビア州だけでなく、僕が後半訪れた北部のノースウエスト準州でも発生していて、森林だけでなく、居住地区や主要都市を結ぶ高速道路の周辺にも迫ってきており、僕たちはなんとか通行できましたが、鎮火までの今後の道のり、さらに今後、いつ自分たちの住居にも降りかかるか分からない火事への対策に、大きな虚無感と恐怖を感じているようでした。

ただ、世界中を襲ったこの夏の山火事、そして数日前のチベットの氷河崩落による大洪水にしても、ここまでの事態に至ったのは、僕たち人間が自然が発する警告や予兆を無視し、自分たちの都合で、地球の繊細にしてダイナミックな自然界の循環や連鎖という絆を破壊してきた結果であるように僕には感じられます。

編集部|
40年以上にわたって世界中を訪れ、地球の風景や生き物たちの営みを撮影されてきた高砂さんが、地球の明らかな異変に気づかれたのはいつごろでしたか?


高砂|
僕は1986年から世界の海や自然にカメラを向けてきました。仕事を始めた当初は、とにかく楽しくてしかたなかった。自然は見れば見るほど、知れば知るほど不思議なこと、知らないことに溢れていて、カメラを手に、地球という“ひとつに繋がるいのち”に向き合うことに日々、感動していました。

ところが1997年から1998年にかけて発生した20世紀最大のエルニーニョ現象(*)時、僕は太平洋だけでなくインド洋など、世界中の海のサンゴが白化したり死滅したりするのを目撃したのです。
ご承知のように珊瑚は海に生息する生物のゆりかごであり、住処です。ここが死滅するということは海中の生命循環の基盤が崩壊したことを意味します。

*エルニーニョ現象
太平洋の中部・東部(南米のペルーとエクアドル)、赤道周辺の海水温が1年以上にわたって上昇する現象。太平洋では通常は東風である貿易風が吹き、赤道付近で温められた海水が太平洋西部に寄せられ、東部では冷たい海水「湧昇流」が生じるが、エルニーニョが発生すると、貿易風が弱まり、温かい海水が東に戻り、海水温が例年より平均で1~2℃上昇する。1998年はエルニーニョ監視海域で最大、3.6℃の情報が観測された。



編集部|
21世紀の到来直前に、自然向き合う写真家としての姿勢が変わるような現実の目撃者になられたのですね。


高砂|
雄大な自然の中に身を置くこと、美しい海に潜り、魚たちに混ざって海中を泳ぐことは実に楽しいことです。人間としての知的欲求が満たされる至福の時間と言っても過言ではありません。ただ、こうして長く海に潜ってきたからこそ、利便性や営利に重きを置く人間の暮らしで、大きな影響を受ける海の現実も見てきました。
僕らの都合で作ったプラスティック片や漁網など“自然には還らない人工物”が多くの海の生物たちを死に追いやっている事実に、目を背けることはできないと思うようになりました。