高砂|
この先住民が培ってきた「水の循環」や「いのちの繋がり」を大切にする自然に敬意を払う文化は、ハワイのみならず、世界各地で社会全体に浸透しつつあることを今回のカナダの取材でも感じました。
編集部|
カナダには継続して、何度も足を運ばれているようですね。
高砂|
カナダはまさに雄大な大自然と天空の魅力に出会える国です。カナディアンロッキーが広がるバンフ国立公園は1887年制定のカナダ最古の国立公園、オーロラ鑑賞で有名なイエローナイフは北極圏の入り口、グリズリー(ハイイログマ)が生息するブリティッシュコロンビア州のキャンベルリバーといった、圧倒的なスケールの自然と天空、そして生きものたちに出会える場所です。
今回は、現地で撮影サポートのクルーと合流し、ゴムボートに乗って川下りをする取材だったのですが、その日の工程を終え、川岸にテントを張り、僕たちが食事をしていると対岸でグリズリーがこちらを観察しているのが見えました。クルー全員に緊張が走りましたが、クマは一瞬、木の陰から出てくる素振りを見せたものの、再びゆっくりと森の中に戻ってゆきました。いつもの散歩でたまたま見慣れぬ闖入者を見かけただけのように。
クルーのひとりが「クマの悪口を言ってはいけない。彼らには何でも聞こえるから」と、小声で囁きかけたのです。彼は白人でしたが、先住民たちの知恵に感服し、自然との付き合い方に取り入れているとのことで、取材中に何度かその知恵を話してくれました。
僕自身も今まで、特に動物たちを撮影する時などは、こちらが怖がると相手も怖がること、自然に対して悪感情を持つと、それが自分に跳ね返ってくることなどを知っていたので、その先住民の言葉はとてもよくわかりました。あの晩、漆黒の闇の中の小さなテントに身を横たえた時、僕はクマがいる場所にお邪魔し、その存在を感じながら眠ることに、少しの恐怖感と、いいようもない至福を同時に感じました。
編集部|
アラスカでヒグマに襲われた写真家、星野道夫(1952-1996)さんが亡くなって今年で30年になります。昨年来、日本各地でのクマやシカ、イノシシなどによる獣害のニュースが頻繁に報道されるようになりました。被害に遭われた方々のことを考えると、然るべき対策がとられるべきとは思いますが、人間が彼らの居場所を奪ってきたことも事実。同じ地球を住処とする生きもの同士として、私たち人間が、地球の生態系の未来をどのように保ち、調和へ向かわせるべきかを知能と感情を持って、私たち人間から未来志向の対話を始めるタイミングにあるのでしょう…。
まずは、彼らの悪口は慎みます。
高砂|
カナダにおける先住民は全人口の4パーセントほど、憲法によって先住民族として認定され、徐々に地域住民による自治権の拡大も進み、教育や保健だけでなく、カナダの大地は先住民たちのもの、という認識に立ち、彼らの知恵を尊重し、共有する動きが進んでいます。
僕は生きものに対して愛情を持って接してゆきたいし、その時の感情をそのまま写真に写したいと思ってきました。以前は写真を撮ることで完結していたことが、近年は自分が撮ったものの意味を考えたり、さらに写真が世の中に対してできることは何かを模索したりするようになっています。
2011年、東日本大震災で僕の故郷、石巻は甚大な被害を被りました。僕自身、震災によって変わり果てた故郷の姿に大きなショックを受けました。そこから気持ちを整理するまでにかなりの時間を要しました。
今年の日本各地の地震や豪雨による洪水被害、そしてチベットで発生した氷河の崩落による大洪水、いずれも悲惨な状況であることは事実です。被災者の方々には心からのお見舞いを申し上げます。
ただ、地球は現状の自然や環境を持ち堪えることができなくなったのであり、そうすることで新たな状況へと変化しようとしている事実もあるように思います。
僕はこれからも写真家として写真を撮り続けます。今はその延長線上に「これまで感じてきた何かを伝えた方がいい」とか、「自然や人との出会いで感じたこと、見たことをちゃんと話したい」という気持ちが強くなっています。“ひと繋がりな存在”である僕達生きものについて、より多くの方々と共に考えていきたいと思っています。
*高砂淳二さんは11月12日に開催の『第7回ecobeing』に登壇されます。
皆様のご参加をお待ちします。