~地球の声に耳を傾ける~
エコピープル

2026年初夏号 Ecopeople 108辻井ミカさんインタビュー

©︎ MORIYAMA Masatomo

編集部
現在、力を注がれているプロジェクトがおありと伺いました。お聞かせいただけますか?

辻井
「いけばな」を通じて、地球の大切な自然環境を守り続けることを多くの皆さまと共有するプロジェクトを日本各地で展開しています。
編集部
日本各地の多様な自然を「いけばな」として表現するということですか?

辻井
日本は南北に長く連なる列島です。気候は亜熱帯から温帯、亜寒帯まで多様で多彩、春夏秋冬の季節の移り変わり、そして標高の低いところから高いところまでほぼ地球全体の自然環境に近いものを体験できる場と言えます。
この豊かな自然環境を自覚し、自然の美しさを失くしてはいけない、また、守り伝えたいという心を育てるプロジェクトを、「『嵯峨御流 日本をいける』プロジェクト」と題し、全国展開してきました。

©︎ MORIYAMA Masatomo






編集部
沖縄から北海道までの日本の多様な自然環境を舞台とし、その地が継承してきた独自の文化や環境の特性を抽出し、特色ある風景を「景色いけ」の“型”で表現して、“型”とともに後世に伝えていくプロジェクトですね。

辻井
そうです。例えばこの作品は、沖縄の御獄(ウタキ)、男子禁制の聖地です。斎場御嶽(セーファウタキ*)は琉球王国の最高位の聖地とされ、琉球国王でも装束の打ち合わせを左右逆にし(女装)、参拝したとされています。
御嶽は、奄美群島から宮古・八重山列島に点在しますが、斎場御嶽の周辺の森林は沖縄列島南部における最も素晴らしい植生を有する森林で、亜熱帯性の植物が折り重なるように繁茂しています。

(*)2000年、首里城と共に「琉球王国のグスク及び関連遺産群」としてユネスコの世界文化遺産に登録。



祈りの場であり、古来より崇拝を集めてきた場所であったことからも周辺の亜熱帯の植物相は実に豊かで、幾重にも重なる植物の深い緑と鮮やかな色彩の花や鳥の姿が強烈で、その印象を表現するべく、椰子やスキミア、谷渡り、百合、ストレリチアなどで見立てて高密度にいけました。

写真提供|大本山大覚寺 嵯峨御流 華道総司所







編集部
北の森、たとえば北海道ではどのような作品をいけられたのでしょう?

辻井
北海道では風雪に耐え抜いた北の森の勇壮な春を表現しました。北海道は日本全国の森林面積の22パーセントを占める554万ヘクタールという広大なエリアが森林に覆われています。その7割が天然林で、エゾマツ、トドマツなどの針葉樹とシナノキ、ミズナラなどの広葉樹が混じり合い、独特の森の気配を漂わせています。
北海道は、本州が梅雨空に入る季節にやっと春を迎えます。道北では山頂部にはまだ雪が残り、雪解けの水は森林から平野部にかけて伏流水となって、冷たい水を蓄えた湿地帯を形成します。この景色を表現しました。
花器は、土色でどっしりとした水盤を選びました。その中央には北の大地の主、エゾマツを堂々と据え、手前には雪解け水を湛えた湖沼を表現するべく、あえて水の姿を見せました。さらにエゾマツの根元を取り囲むように春の息吹を感じさせる葉桜や金葉小手毬、金雀枝、柳を配しました。
編集部
その地域の独特の風景を表現できる“型”の選定、そしてふさわしい花器や花材の見立て、それによって地球上のあらゆる環境を表現することができる、嵯峨御流の「いけばな」を一言で表現するとしたら、どのような言葉に置き換えられるでしょう?

辻井
「花即宗教」です。ここで言う宗教とは、広義でとらえて“大いなる自然の力に対する畏敬の念”。と同時に小さな草木を愛おしむ“慈しみの心”、に集約されるかと。
いのちを育む自然を慈しむ心が託された“いけばな”、その本質をひとりでも多くの方々と分かち合いたいと願っております。

写真提供|大本山大覚寺 嵯峨御流 華道総司所